イリュージョニスト

L'Illusionniste
老いた手品師と異国の少女の哀愁漂う物語。 ジャック・タチが娘へ捧げた幻の脚本をシルヴァン・ショメがアニメ化した作品。
イリュージョニスト

アニメ映画っていいですねえ。美しいし、絵が動くし。すごいですねえ。
絵が動くことの最初の感動を決して忘れていない良質のフランスアニメ映画です。
シルヴァン・ショメは絵も描くし脚本も作るし音楽まで作る才能豊かな逸材で世界的に高い評価の人物なのだそうです。

「イリュージョニスト」は、フランスの喜劇王ジャック・タチが書き残しこれまで映画化されてこなかった幻の脚本の映画化なのだそうです。主人公はジャック・タチをそのままキャラクター化したデザインとなっています。

物語はパリの初老の手品師です。かつてはもしかしたら一世を風靡したスターマジシャンだったのかもしれません。今では注目されることもなく、寂れた劇場やバーでどさ回りをしています。
どさ回りの果てに訪れたスコットランドの田舎町で出会う少女が登場。手品師を魔法使いと思い込み畏怖のまなざしを向け、しまいにはエジンバラまで付いてきてしまいます。
初老の手品師と田舎少女の暮らしが始まります。
初老の手品師は親切にされたお礼なのかどうなのか、田舎少女を喜ばそうと甘やかすんですね。魔術のふりして彼女がほしがる靴や洋服を買い与えます。

言葉が通じないという設定もあって全編セリフがほとんどなく、動きと情景だけですべて見せます。
美しさに惚れ惚れするようなショットを交えつつ、老人と少女、それにその他の個性的なキャラクターたちが時代の変わり目に翻弄されつつ生きている姿を描きます。

落ちぶれた手品師、興行師、ピエロに腹話術師にアクロバットチームたちに酒場で飲み明かす人々。彼らは時代の波に置き去りにされて滅び行く人々です。
片や街にはデパートや新しいショップが登場していて、魔術を信じていた田舎少女はだんだんと現代っ子になっていきます。彼女は新しい世代の若者であり、いつまでも老人と一緒にいるということはあり得ません。
そう、予想通りの哀愁漂う映画です。
少しの哀愁がだんだんと塗り広げられ、時代から置き去りにされ捨てられるものたちのノスタルジーと哀愁が画面いっぱいに充満します。
決して悲劇ではありませんしユーモアもあるし、愛情に満ちた物語ではあるのですけれど、この哀愁だけはどうにもなりません。
見終わって、心温かくなるよりも悲しい気持ちになってしまいました。

絵柄は上品でリアリティがあるデフォルメ調、CGもふんだんに使い、現代的な部分もあります。アニメーションの動きはほんとに美しい。各場所の風景をはじめ、光と影の移り変わりや風の表現など、情景描写はたまらなく美的です。

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