ですよね。「愛する人」てなタイトルでは何の映画かさっぱりわかりません。原題は「母と子」でありまして、あぁそうなのか、母と子の物語なのだな、と、そう思ってご覧になればよろしかろうと思います。
制作総指揮はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥで、ご存じ「アモーレス・ペロス」「21グラム」「バベル」なんかの群像劇の人ですね。
「愛する人」も群像劇っぽいです。ぽいですが、ややこしい群像劇ではありません。時間軸をいじくったりトリッキーな部分は全くありません。普通に何組かの主要登場人物がドラマを繰り広げます。
監督のロドリコ・ガルシアは59年生まれのコロンビア出身で・・・あ。なんとガブリエル・ガルシア=マルケスの息子ですって。なんたるちあ。そうですか。そうなんですか。
この方、95年の超面白かった映画「フォー・ルームス」で撮影監督もやっていました。えっ。そうなんですか。それはそれは。
さて「愛する人」です。群像劇っぽく、複数の主要人物たちがドラマを繰り広げるっていう話の続きですが、どういう人々が出てくるかというと、14歳で子供を産んで養子に出してしまったカレン(アネット・ベニング)です。生んでから37年後です。いつまでも引きずっています。カレンの周りには彼女の母親、お手伝いさん、職場に現れたパコという男などがおります。
養子に出されたエリザベスは37歳。キャリア志向で生き急ぐタイプの女性です。我らがナオミ・ワッツが演じます。ナオミ・ワッツ、魅力的すぎます。彼女の周りには上司のカッコいい男ポール(サミュエル・L・ジャクソン)や近所のカップル、盲目の少女などが現れます。
別件でルーシー(ケリー・ワシントン)という不妊の女性が養子を取るために奔走するお話が絡みます。彼女の周りには旦那、母親、養子契約を結ぼうとする女の子レイ(シャリーカ・エップス)、レイの母親などが登場します。
養子縁組を仲介している教会系の施設のシスターなんかも節々で登場して、このおばさんが登場人物たちとの繋がり、接着剤部分の役割を果たします。
という感じで登場人物は盛りだくさんですが心配ご無用、全然全く何一つややこしいことはありません。とてもわかりやすいです。誰が誰だっけなんていう状態にも一切なりません。うっかり見落としがちですが、これほどの登場人物たちのそれぞれをちゃんとドラマとして見せるっていう基礎的な実力がきっちりあるということですね。
どの登場人物も軽々しさや脚本的なご都合主義が全くありません。ちょい役の誰かですらそうです。登場人物すべてが個性的で、描かれないバックグラウンドも持っており、説得力があって感情移入できます。これはすごいことですよ。
ドラマは比較的感傷的だったりしますが、じめじめしたり間延びすることもなく、さくさく展開します。くどいお涙頂戴シーンもありませんで、クールな演出が好感度高いです。さすが制作総指揮アレハンドロさんです。
ところどころに印象に残る名シーンのようなものもあります。決して大袈裟なシーンではなく、観ている誰かのそれぞれの心にぐっとくるシーンです。人によってその場所は異なるかもしれません。映画的に画一的な印象を持たれるような演出ではないのですね。いろんなシーンを提示して、それを受け止める人の気持ち次第で感じ方が変わるような作戦です。
で、「母と子」「養子縁組」の話でありますがそれぞれの人たちには愛の暮らしもあります。主に前半にはこのそれぞれの女性たちの恋人の物語も絡んできたりして性的な描写も満載です。注目すべきはスーパー魅力的なナオミ・ワッツが37歳で恋人は孫もいるような年代、母親51歳で恋人も中年男、というふうに、大人の愛やセックスを普通に描いている点です。例えば10代の少年少女たちがこのおっさんおばはんのセックスシーンを普通に鑑賞できるとはなかなか思いにくい。これはつまり大人の映画です。
で、カレンにしろエリザベスにしろルーシーにしろレイにしろ、女性たちが主人公でして、彼女たちの複合的な心理状態や一見意味のわからない態度なんかを多面的に描きます。これはつまり女性の映画です。
親子と養子縁組の物語、展開そのものは奇を衒ったものではありません、普通の地味なドラマです。
アネット・ペニングの渋い演技、その移ろいでいく多彩な表情には注目ですよ。
結論としては、大人の女性向けの作品です。ということで。
・・・それとナオミ・ワッツ命の私向け。サミュエル・L・ジャクソンに私はなりたい。
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