スペインの偉大な画家のひとりフランシスコ・デ・ゴヤです。動乱の時期に生き、宮廷画家であると同時に批判と風刺に満ちた作品群を多く残した天才です。
そのゴヤが死を目前に自分の半生を振り返り語るという切り口の映画です。伝記的なストーリーではなく、まるで舞台芸術を観ているかと思うばかりのイメージの連続です。
どちらかというとゴヤという画家を知っていて、しかもゴヤという画家がどのような人生を歩んでどのような出来事を経てきたかということを知っている人向けの映画となっているかもしれません。
象徴的な出来事をイマジネーションたっぷりの映像美で艶やかに表現しまくります。音楽と映像美は目を見はるものがあります。
で、かと言ってイメージ映像の連続による実験的で難解な作風かというと、これもまた違います。情緒的で、ドラマ性も豊かです。ロマンス部分を強調していたりします。
つまりこの「ゴヤ」という映画は「観る人を選ぶ映画だけど綺麗でドラマチックで見やすい」と、「見やすい映画だけどやや観る人を選ぶ」の両面を同時に持っています。
ただし「観る人を選ぶ」という理由であるゴヤについての事前知識の有無についてですが、スペイン人にとっては常識に近いレベルじゃなかろうかと思われまして、本国では何ら問題ないんじゃないかと思います。
知識がなく、ゴヤなんていくつかの絵を知ってるだけで後は何にも知らないや、という一般の外国人例えば日本人にとってはある程度の事前知識がないと前提としているところがわかりにくいかもしれないと。
杞憂かもしれませんが。
ロマンスや老人の回顧、少女に美女に動乱に病。絵画に踊りに幻想シーンと盛りだくさんです。
音楽と映像美に関しては何度も言いますがこれはさすがです。さすがスペインの美術です。この映画自体が一つの美術作品として独立しているかのようです。
オープニングの悪夢のようなショット、劇中のダンスシーン、酒場での歌、そしてエンドクレジットにいたるまで、映像と音楽のアート・ショーのようなシーンが、観てから何年経っても思い返されます。
いつまでも耳について離れないので使われているのは何の曲だろうと、ときどき参考にさせていただいている極楽Pageさんの「クラシック音楽が使われている映画」で見てみますと、使用されたクラシック音楽は以下のようです。
ボッケリーニ:ギター五重奏曲第4番『ファンダンゴ』”Fandango” from “Quintet, op.37″
ボッケリーニ:”Largo” from “Quintet, op. 2″
ボッケリーニ:弦楽五重奏曲イ長調Op.13-5,G.281(”Minuet, op.13 No.5″)
チャイコフスキー:”Nocturne for Cello”
クープラン:”Tambourine for Piano”
ベートーヴェン:”Quintet, op.31″
いやしかしそれにしてもこのデータベースは凄いですね。
さて「ゴヤ」にてゴヤを演じるのはフランシスコ・ラバルでして、「ゴヤ」の後「DAGON」が遺作になりました。1946年から多作に出演の大ベテランですね。
そして「着衣のマハ」「裸のマハ」のモデルと言われているアルバ公爵夫人を演じるのがマリベル・ヴェルドゥです。印象的な役回りでとてもいい感じです。マハのモデルはもうちょっとふくよかな女性かと思っていましたがまあいいでしょう。
マリベル・ヴェルドゥは「天国の口、終わりの楽園」のルイサって言うと色艶ぷりぷりなイメージ、「パンズ・ラビリンス」のメルセデスって言うと疲れたおねえさんのイメージと思う人も多いかもしれません。
「ゴヤ」は「天国の口、終わりの楽園」より以前の映画ですからもちろんほんとにお若いのですよ念のため。
ゴヤの娘がとっても可愛いです。まだ幼いのですが賢そうで健気で献身的、もし万が一「ゴヤ」を退屈な映画であると思われたとしても、この娘さんを観ているだけで満足できるでしょう。
娘役はダフネ・フェルナンデスという女優で、実際には快活そうな元気そうなお嬢さんですね。「ゴヤ」から10年以上経ってますからもうすっかり大人です。この人の映画、ほかに日本に来てないかな。
監督は巨匠カルロス・サウラ。すいません。何も知らずに「巨匠」なんて書きました。
カンヌやベルリンの映画祭で3度の受賞経験があるそうですね。やっぱり巨匠でした。ゴヤと生地が同じだそうです。母親がピアニスト、兄(弟?)であるアントニオはゴヤの研究者としても有名な画家だそうです。冒頭に「a mi hermano ANTONIO」と書かれているのは謝辞でしょうか。
撮影はヴィットリオ・ストラーロで、ベルトルッチ作品をはじめ「地獄の黙示録」などで有名な、この方も巨匠と呼ばれる方です。
さて、そうこう言いながらも白状しますと私の超個人的感想の心のつぶやきでは「ドラマがちょっと叙情的感情的すぎてしつこい」などと酷いことを言ってしまっております。叙情的感情的なしつこい演出はスペイン映画の特徴の一つ、そんなことは合点しておかねばなりません。でもそう思っちゃったものは仕方ありません。一見大好物な映画ですが、もしかするとゴヤそのものがかなり大好きなので、ゴヤ的な意味で満足できなかったのかもしれません。演出過剰で大袈裟で壮大感もあったりして、何も知らずに観ているときは「監督若い人?」なんて思ってしまいました。失礼な話ですねほんと。
巨匠の作品と知ればイメージもがらりと変わります。いろんな意味で、若々しい作品です(笑)
この作品は、ゴヤそのものよりもイマジネーションあふれる舞台芸術的シークエンス群(と、可愛い娘さん)(と、マリベル)を心ゆくまで堪能するつもりで挑むのが良いでしょう。
数年前に観ているのに心に食い込んでいるシーンがたくさんあります。やっぱり力がある作品ってことなのです。
「ゴヤ」は2000年のゴヤ賞4部門のほか、いくつかの賞を受賞しました。
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