8人の女たち

Huit Femmes
フランスを代表する大物女優夢の共演。歌って踊る密室ミステリー。2002年のオゾン作品。
8人の女たち
8人の女たち DVD GAGA

大物女優の共演で、ミュージカル仕立てのミステリ。なんだ色物かと何となく敬遠してきたわけですが「まぼろし」と「Rickey」のあまりの素晴らしさに今ごろ突然マイブームであるところのフランソワ・オゾン、その代表作品のように扱われている「8人の女たち」を観ました。

舞台は郊外の屋敷。クリスマス休暇で一堂に集まった家族の前に突きつけられる一つの殺人事件。雪による密室、ここにいる8人の女の誰かが犯人だ、と由緒正しいアガサ・クリスティ的なるミステリのはじまりまじまりです。

50年代+密室殺人+大女優たち+ミュージカル+コミカル、いいですね。いい感じです。

この作品にはテーマというか売りというか見どころが沢山あります。
まず何と言っても大女優の共演です。色物でもいいのです。むしろ色物を狙っています。
名探偵登場」のフランス大女優版と言えるかもしれませんし、私が知らないだけでこういうテイストは往年の映画界では定番なのかもしれません。

1931年デビューのスーパーウルトラ大ベテラン、かつてフランス映画史上最高の美女と称されたダニエル・ダリュー。歌も大変上手です。最近「ペルセポリス」で最重要キャラの祖母の声を務めていました。

64年「シェルブールの雨傘」の世界的ヒットでスターとなった超絶美女カトリーヌ・ドヌーヴ。個人的には何と言っても「昼顔」です。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」ではナチュラルな役柄で登場、最近ではやはり「ペルセポリス」に声の出演、そして2010年「しあわせの雨傘」でまだまだ現役の凄みを見せつけております。

フランソワ・トリュフォーでお馴染みすらっとしたファニー・アルダンはピリリとスパイスのような役柄での登場。トリュフォーの古典主義作品のせいで「この人はむかしの女優さん」と思ってしまいがちですが「隣の女」も81年の作品です。なんか、映画ってわざと昔風に撮ったりするもんだから後から観ていつがいつなのかさっぱりわかりません。本作も50年代風に撮っていますが2002年の映画ですからね(笑)

エマニュエル・ベアールです。いいです。よすぎます。悶絶。「美しき諍い女」を未見なのですが、あんなの観たら気絶するかもしれん。レバノン、エジプト、ユダヤ、イタリア、ギリシャの血を引く多国籍のお顔立ち。絵画作品のような美しさ。たまりまへんなー。最近は「変態島」で狂気一歩手前の母親役をやっておられました。

パッション」のどもり「ピアニスト」の変態「主婦マリーがしたこと」の奔放主婦「ジョルジュ・バタイユ ママン」の変態ママ、その正体はフランスきってのインテリ系実力派大女優にしてカンヌで審査委員長も務めたイザベル・ユペール。なんと本作ではコメディアンヌです。嬉々としてインテリ性を排除したコミカルなハイミスを演じました。後半のとあるシーンで皆ずっこけまくり。

と、まあそんな調子でこの映画には8人の女性だけが登場します。暑苦しささえある大女優の共演、監督も圧倒されそうになるのに耐えながら頑張って撮ったらしいです。

ミステリ仕立ての原作はロベール・トマの舞台劇「Huit Femmes」。お話はいろいろと変更したそうですが、女たちの会話劇は舞台劇ならではの迫力でした。
懐かしい系の設定、筋書きですが細かいところが現代的です。後半、衝撃の告白が連続するところでは観ているみんながのけぞります。さすがフランス愛の国。愛の本質は上っ面のふわふわ愛ではなく性愛でありねちねちのどろどろ、本質イコール表層であり表層イコール皮膚と皮膚、粘液と粘液のねちゃくりあいでございます。これが大人の国の愛の映画。

さて演出・映像が昔風です。
むかしのコメディ+ミステリ映画、好きなんです。50年代ハリウッドの華やかなりし時は知りませんが、70年代にもそのテイストを引き継ぐ映画は沢山ありました。
殺人事件は単なる事件、リアリティより小気味よさ、派手な衣装と派手な色、豪華調度に大きな屋敷、疑心暗鬼と会話劇、てな具合です。
徹底した画面作りはフランソワ・オゾンの映画オタクっぷりを再確認できます。

この作品でも「イン・マイ・スキン」のマリナ・ドゥ・ヴァンが脚本で参加しています。女のどろどろを描かせれば天下一品、「まぼろし」の中にも女性ならはっとするようなリアリティがあるセリフが散りばめられていました。今後も期待です。

というわけで、オゾンを紹介する文章を見たら必ず「『8人の女たち』の」と書かれているくらいヒットした作品ですが、そりゃまあヒットするわいな、とよく判る一本でございました。

DVDにはいろいろと付録が付いています。来日記者会見からカトリーヌ・ドヌーヴのインタビュー、コメンタリーに監督インタビューなどなど。
来日のときは主人公の若い姉妹役、ヴィルジニー・ルドワイヤンとリュディヴィーヌ・サニエがお供して来られていて、まあお二人ともキュートなこと。来日時のその時の様子がうかがえます。リアルタイムではまったく興味がなく全然知らない世界での出来事でした。

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