原題は「サスペリア」じゃなく「La Terza madre」英語で「The Mother of Tears」です。「涙の母」という三魔女のひとりがタイトルになっておりまして、本当に「サスペリア」から続く魔女三部作の完結編なんですが、わざわざ「サスペリア」とくっつけてサスペリアを強調してますね、まあ、売りとして仕方ないですけど、かつて関係ない作品に「サスペリアパート2」という邦題をつけるくらいにホラー映画ってのはみんな適当にあしらいます。正確な邦題は「サスペリア・テルザ 最後の魔女」なんていう長ったらしいタイトルとなっておりますね。
この作品、公開時から散々に言われてましたのでダリオ・アルジェントを崇拝する立場として避けておりました。しかし「デス・サイト」やら、最近の「ジャーロ」やらという踏み絵みたいな作品もちゃんと観ましたので、そろそろ耐性がついている頃だと思い観てみました。
それに、脚本で参加しているアダム・ギーラッシュが監督した「解体病棟(ファイナル・デッド・オペレーション)」がとても面白かったので少しばかりは期待しながら挑んだというわけです。
結論から言いますと、先に踏み絵的駄作作品を観て耐性がついていたおかげでわりと楽しめました。耐性がついていなければ危なかった。期待してしまうからです。
アダム・ギーラッシュの脚本に関してはさっぱりでした。というのも、クレジットを見てお判りの通り、いったい何人が脚本に参加してんねんと、ついでに製作も。人が多すぎです。
アダム・ギーラッシュについては今後のソロ活動を楽しみにしておきます。
最近の二作、「サスペリア・テルザ」と「ジャーロ」には面白い特徴があります。
ダリオ・アルジェント師匠によるセルフ・パロディ(というと語弊もありますが)というか、過去の総括というか、そういうものを感じます。
本作「サスペリア・テルザ」ではオカルト方面を、「ジャーロ」ではスリラー方面のおさらいをしているようです。ファン・サービスとも取れるし、自ら振り返ってみているようにも取れるし、さらに言えば過去作品をバージョンアップしているつもりではないかという節も感じられます。実際はどうなのか知るよしもありませんが。
で、全然バージョンアップなどにはなっていなくて、昔あんなにカッコ良かったずば抜けたトゲやアートの部分が全て抜け落ちて優しいおじさんみたいになってしまってます。
「サスペリア・テルザ」では「サスペリア」の系統であるところのオカルト総括をやっているようですが、忘れてならないのが「フェノミナ」の系統であるところのファンタジー要素もきっちり入っている点です。
ずばり「フェノミナ」みたいなシーンもありますし、何といっても本作のシナリオは実はオカルトではなくファンタジーになっております。
オカルトを期待していると完全に肩透かしなお話です。ファンタジーでゲーム的でちょっと子供っぽいお話なんですね、骨子が。これはちょいと意外でした。
「サスペリア・テルザ」には良いシーンもたくさんあります。舐め回すようなカメラアングルやカラフルな照明やアーティスティックな構図など、ダリオ大先生の往年の名作を彷彿とさせるシーンも健在。「ジャーロ」と比較すればこちらのほうがずっといいです。
特にラストシーンの美しさには目を奪われます。脚本的にはへぼへぼですが、あのシーンの美しさで全て許せます。
主演は娘さんのアーシア・アルジェントです。「王妃マルゴ」でしか見たことありませんが、いろいろな映画に出ておられます。もうすっかり大人です。ハスキー・ボイスで「お母さん」なんて言うシーンには少なからず違和感も感じましたが、それはそれ、これはこれですね。
さてダリオ・アルジェントと楳図かずおの関係についてはこれまでも時々口走っていましたが、本作でもやはり楳図っぽさを感じずにはいられません。
細部にだけ拘る不可思議な演出、変な人の変な行動、「楳図漫画なら見開きでバーンだよな」って連想できるシーンのオンパレードです。
あり得ませんがダリオ・アルジェントがもし「14歳」を撮ったらどうなるでしょう。パーフェクトな映画化になることは明らかです。あの変さも含めて全て。
というわけで私は研究者でも評論家でもありませんからこの共通点についての丁寧な解説はできませんが、どうですか、わかる人にはわかっていただけるでしょうか。