ポストカードのような美しい景色に佇む小さな村が舞台です。田舎故、保守的な思想が根付いており、特に日本人の我々が見た時、男尊女卑や親を蔑ろにする態度にちょっと驚きを覚えるかもしれません。
生きる意欲を失っていた老女マルタは、合唱隊の旗の修繕を依頼され街に生地を買いに行くことで若い頃の夢を思い出します。ランジェリーショップを開く夢です。若い頃は刺繍の腕前があり品質を見る目もありました。いまでもあります。
アメリカかぶれの友人リージの後押しもあり、よしいっちょランジェリーショップやってみるかと元気を取り戻すんですね。
老女マルタは頑張ってランジェリーショップを開きます。お友達の協力もいい感じ。
しかし田舎の保守的な思想の中では、ランジェリーショップなど破廉恥で厭らしい汚らわしいものとされ、なかなか理解されません。息子なんか冷たいものです。腹立つほど冷たいです。近所の鬱陶しい奴らもランジェリーショップを汚いものでも見るような目で見ます。
とまあそのような中で老女の揺れ動く気持ち、家族やお友達それぞれのサイドストーリーなどを織り交ぜて物語は進みます。美しい景色も出し惜しみしません。
老人たちがそれぞれに活躍する予想を裏切らないこの作品、暖かくやさしく、そしてねちっこさやしつこいお涙頂戴などが全くないドライな作りがとてもよいです。いえ、そうはいいつつほろりとするのは確かですが、しつこくないってところが大いに評価できるところです。しつこいお涙頂戴だけはご免ですよね。
監督は「ひとすじの温もり」(2004)のベティナ・オベルリ。1972年生まれの女流監督です。「マルタのやさしい刺繍」は本国で動員数1位に輝く大ヒットとなり、日本でも2008年に公開、2009年にはDVDも発売されヒットしました。
マルタを演じたシュッテファニー・グラーザーはスイスで名の知れた大女優だそうです。生き生きとしておられます。
他の3人のお友達役もそれぞれとても良いです。おばあちゃんであっても、こういう方々を素敵な女優というんですね。
そして蛇足ながら、当ブログとしてはおばあちゃんが旨そうに煙草を飲む描写がまた格別で、秀逸であると一言付け加えときます。
日本もこれからさらにずば抜けた田舎老人社会となるわけで、貧困や停滞や老人を中心に据える映画が求められます。くどくてどろどろの老人映画ではなく、ドライでクールかつソフトでホットなこのような厭味のない作品を作る技術をきちんと学ぶ必要があるんじゃないかと思います。
ウェッブトーナメント、こちらに投票しました。頑張ってください。
ありがとうございます。ブログも拝見しました。感想の相違もありますが、作品チョイスがけっこう被っていて、興味深く読ませていただきました。