1作目の「ミミック」はギレルモ・デル・トロの2作目にしてアメリカ映画デビュー作で、公開当時はあまりパッとした印象を受けなかったんですが稚拙なところもなくインディーズ臭くもなく、正しいヒット作品の風格がありました。正しいヒット作品の風格があったからこそ「普通だな」と思ってしまって印象に残らなかったんですが、ギレルモ・デル・トロ作品として改めて見直す必要があるかもしれないと思わずにはおれない今日この頃です。
2作目は未見なのでパスするとして、3作目にあたる本作「ミミック: センチネル」は劇場未公開のオリジナルビデオ作品です。 この作品がなぜ重要かというともちろん監督のJ.T.ペティです。「mute ミュート」( 原題: Soft For Digging)で見せた文学性や映像美はただの若者のつっぱりか、はたまた才能か、溢れるばかりの映画たちの中で、これほど強く印象に残す仕事を若くしてやり遂げたこの監督、他の監督作品を見届けたいと思うのが親心というものです。
というわけでこの作品、体の弱い若者がカメラで覗き見る団地周辺の映像が多くを占める「裏窓」(ヒッチコック)のモンスターホラー版になっております。
気になる美人のおねえちゃん、ゴミ袋を持った変な奴、子を虐待しているおっさん、いろいろな人を覗き見ています。
カメラのファインダー越しの映像は暗く観にくく、誰が何をやってるのかよくわからないシーンも多いのです。
覗き見している間は、小さな音で洒落た音楽がかかっており、効果的な環境音も使われてます。
そうそう、「mute」もそうでしたが、使う音楽のセンスが大変洒落ております。文学性の高い映像表現や怪しい人物たちや静かな舞台にぴったりなやや芸術的な音楽センスです。
「ミミック」シリーズとして、あるいはモンスターホラー映画としては、これは多分、普通の娯楽映画を求めているとすれば全然駄目な仕上がりになっています。
モンスターはほとんど出てこないし、モンスターとの闘いシーンみたいなクライマックスもほぼありません。主人公はモンスターが暴れている間冷蔵庫の中に隠れているだけだったりします。
では「裏窓」としてはどうかというと、これもあまり褒められたものじゃありません。映像で状況を説明する演出が下手だし、何がどうなっているのかよくわからないまま強引にストーリーを展開させるのはあまり親切とは言えません。大体、謎の失踪事件が殺人事件なのかゴキブリモンスターの仕業なのかっていう、そういう話がスリラーとして面白いわけありません。モンスターだって知って観てるんだから。
では変な人たちが変な場所で変な動きをするリンチ的な、あるいは「変態村」みたいな、またあるいは「サスペリア2」のようなアートよりのホラームービーとしてはどうかというと、この見方が一番しっくり来るとは言うものの、 やはりアート臭以外での映画としての説得力に少々欠けるため、強く褒めることはできません。所謂スタイリッシュ系のアート臭い下らない映画よりはじっとりしていて見応えがありますが、時々垣間見れる「普通の演出が稚拙」という残念な部分が足を引っ張ります。
こう言っては元も子もありませんが、J.T.ペティは才能があります。しかしながら基礎的実力があまりない。
でも才能部分は私は大好物なので、天狗にならず実力を付けて素晴らしい映画を撮って欲しいと願うものであります。ヨーロッパ資本の映画に取り組むとかどうでしょう。
この監督、2001年の「mute」で才能を認められて2003年の「ミミック」を撮りましたが、その後消えたようです。仕事がありません。非常に残念です。やはり基礎的実力のなさと、ちょっとプライド高そうな態度が悪かったのでしょうか。映画関係の仕事は続けているのでしょうか。 余計な心配をしながらあれこれ情報を探していると、なんとありました! 2008年に「ディセント」のパチモンの「ディセントZ」という映画の監督にクレジットされています。
良かったね! これはどうしても観なければ。5年間の成長ぶりが発見されるのか、別の方向性を見つけたのか、より変になったのか、牙を抜かれたのか、興味津々でございます。
「ディセントのパチモン」とか書きましたが、もちろんパチモンに仕立て上げたのは配給会社の悪巧みで、ほんとのタイトルは「THE BURROWERS」という「ディセント」とは何の関係もないモンスターホラー系の映画っぽいです。
しかしモンスターホラーからは離れられないのね>ペティちゃん
さて出演者についてです。 主人公のひ弱な青年を演じるカール・ギアリーは「ディセントZ」にも出演ですね。「サブウェイNY」なんていう配給会社の悪巧みパチモン映画にも出ています。 体は24歳で心は少年のカメラ小僧を上手に演じました。いい感じの俳優です。
妹役のアレクシス・ジーナはとってもチャーミングなお嬢ちゃんで、この人誰だと思いますか。「ブロークン・フラワーズ」に登場した主人公のむかしの恋人の娘ですよ。あの奔放な娘です。「ブロークン・フラワーズ」を観た人だけに判る目玉に食い込むあのシーン。ドキドキしますね。
美女カーメンはレベッカ・メイダーです。「プラダを着た悪魔」や「ヤギと男と男と壁と」の他、テレビドラマなどに出演。
母親役のアマンダ・プラマーは「死ぬまでにしたい10のこと」で職場の女友達を演じた人。濃い系の役がお似合いです。
追記です。 ペティちゃん仕事あるのか、なんて書いてしまいましたが、「ミミック3」の後は2006年に「S&MAN [SANDMAN] 」という映画を撮っていました。原案・脚本・監督です。「サンドマン」どんなんでしょう。面白そうですよ。モンスターものではないし、JTの良さが発揮されてそうな気がします。でも日本版が出ていません。誰か出してー。 S&MANはもう公式サイトもないみたい。インタビュー記事発見。 http://www.iconsoffright.com/IV_JTPetty.htm YOUTUBE: S&Man (sandman) Trailer さらに追記 日本版が出る気配もないし、DVDには英語字幕もないらしいのでお手上げ。いろいろ探したら丁寧なエントリーがあったので勝手に紹介。 –>映画|サンドマン|S&Man (Sandman)::ホラーSHOX[呪] エントリーの後半にはとても詳しいネタバレ付き。いよいよ諦めてDVDを輸入したときに参考にさせていただきます。
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