監督と脚本はユーグとサンドラのマルタン兄弟ですか。と言っても兄弟なのかどうかは知りませんけど。きっと若手だと思います。というのもこの作品、若さがみなぎってます。みなぎっていると言いましてもどちらかというとあまり褒める意味で使っておりません。悪く言えばイメージ先行型で実制作がついていけてないし下手くそな部分が目につく、よく言えば高い目的意識と理想があってテーマも良いので将来楽しみ、中間で言えばやや稚拙で詰め込みすぎ、同情的に言えば予算と日程が足りず思ってたことを詰めきれなかった。とはいえテーマや大筋のストーリー、シーンごとの要素や「やりたかったであろう効果」を見ると決して悪くないし、どちらかと言えば私としては好物です。ですのでこれからも頑張ってほしい。
さてジンっていうのはアラブ世界の妖精というか妖怪というか魔神というか人ならざるものというか、古くから伝わる超自然的なもののけの総称でして、その名は聞いたことがあるんじゃないでしょうか。
ジンは目に見えない存在で変幻自在、良いジンと悪いジンがいたりして、善きジンに取り憑かれれば聖人となり悪しきジンに取り憑かれたら狂人となったりするそうです。やんちゃないたずらジンから人殺しの魔物ジンまで多種多様でそれぞれに格付けされた呼称もあるようです。
「ゾーンA」に登場するジンはどういうジンでしょうか。人間と同じく、彼らも複雑です。どういうわけかジュラルミンケースを奪いたいというこそ泥みたいなジンなんですが、それがこの映画的には大きなテーマと直結しているとはなかなか気づかない良いテーマです。
肝心要の、ジンに取り憑かれて狂っていく兵隊たちのメインストーリーがやや頼りないんですよねえ。とても残念です。前半のじっとりした部分はたいへん良かったんですけどね。もっと気違いっぽくもっと恐ろしくもっと哀しくもっと不思議な雰囲気をきっと作った人たちも出したかったんでしょう。そうだよね>マルタン兄弟。いや親子かもしれないけど。気持ちは十分に伝わりますよ。
舞台は1960年ですから、アルジェリア戦争の頃でして、その前のインドシナに続いて北アフリカの植民地が次々に独立のための戦争を起こしていた頃です。本作の製作国でもあるモロッコもそうですね。映画内でやたら高圧的なフランス軍人を描きますが、フランス人的にはかつての横暴を顧みる気持ちも含んでいるのかもしれません。
かつての植民地時代への思い、アフリカやアラブに対する問題、その後核にのめり込んでいった頃、そういったフランスの社会問題をファンタジーの衣をつけて描きたい。
カメラの撮影やその撮影された映像なんてのも取り入れたい。
精霊ジンと不思議な老婆、現代っ子らしい「なんにもせずにある日突然覚醒してレベルアップする男」も描きたい。
砂漠でのいらいらするような、リアルな戦闘シーンも是非取り入れたい。
登場人物がそれぞれ抱える精神的弱点を増幅させる狂気の物語も描きたい。
軍人の剥きだしの野蛮性や差別意識、戦場での異常性も描きたい。
ホラー仕立てで怖く行きたいしその怖さにアートと狂気の雰囲気もちゃんと取り入れたい。
サバイバルのドキドキ感も外せない。
ドキュメンタリータッチの揺れ動くカメラで臨場感も出したい。
SF的な要素もあればいいよね。
少ないセリフと淡々とした描写で渋く決めたいな。スペイン人の名前なんかも出したいところ。
その他その他。
全部出来ていたらさぞかしすんごい映画になっていたでしょう。いやまてよ、それぞれの要素はいつかどこかで出会ったことがあるような・・・・。
ま、それはいいとして、全部入れるのは無理です。気合い入れすぎです。
良い演出や良いシーンもあります。煙草の回し飲みのシーンとか。今後が楽しみな監督ですね(贔屓目に見て)