罪と罰

Rikos ja rangaistus
アキ・カウリスマキの初長編映画。「罪と罰」の現代ヘルシンキ版というかオリジナル・アキ版でその内容はオリジナリティに溢れ処女作にて生涯の仕事の原点。
罪と罰

ドストエフスキーの原作をどう料理するかと思ったら、ちょっとだけ意表を突くテイストでした。
誰もが、ドストエフスキーの「罪と罰」を現代に置き換えた物語であり、その内容やテーマを踏襲するのであろうと思ったことでしょう。古典の現代版っていうのはそういうものですよね。
ところが本作は物語を変えてしまっているのはもちろん、そのテーマ自体も原作と離れています。離れているというか、踏まえていることを前提にしている節があるんですね。

寡黙な主人公ラヒカイネンは思考を表に出さないタイプですが、観ている人にラスコーリニコフ(ドストエフスキー「罪と罰」)の思想とダブらせるように当然目論んでいます。でも実際にはちょっと違うという、これはある種のミスリードとも取れるし、ミスリードではなくそういう見方を肯定し前提としているから成り立つとも取れるんですね。

例えば、殺人事件の動機に関する事柄(単純な動機を否定する部分)や、最初の目撃者が語る「狂人の目だった」、それから、殺人現場に偶然居合わせた女性をどうするのか、といった部分でオリジナル「罪と罰」を踏まえたり逆手に取ったりしています。パロってるというと言いすぎですが、シニカルな目線が存分に発揮されています。若きアキ・カウリスマキの才能を感じずにはおれません。

「罪と罰」を離れて、アキ・カウリスマキ作品の最初として観た場合、これがまたファンにとっては見どころだらけの堪らない映画となっています。

まず何といってもマッティ・ペロンパーです。そうですか、最初の長編作品ですでにこういう感じですか。若いマッティ、カッコいいです。格好良さとダサさ、人情と暖かみ、そういうのがすでに全て詰まっています。英語の勉強をしながらカッコつけて英語で話しかけたり、荒くれ者を装ったり、ちょっと淋しそうだったり、たまらないですねえ。

港、刑務所、カフェ、煙草、貧困、、労働階級、絶妙な間合い、無表情、僅かな動きによる感情表現、一目惚れ、友情、旅立ち、おとぼけ、ハードボイルド・・・以降の作品の全ての要素が垣間見れます。特にシリアスな作品とギャグっぽい作品の両方の予感が混在しているのに注目です。ずっと後になって改めて観ることによる発見がありますね。 作家にとって処女作が全てであるという説を強く裏付けるデビュー作品でした。

個人的なお話で恐縮ですが、アキ・カウリスマキ映画全作制覇の最後に観たのが本デビュー作で、感慨ひとしおです。
アキ・カウリスマキが注目されていたリアルタイムの頃よりも、いい年になって改めて観る今頃のほうが味わいを堪能できた気がします。時代というよりも観る人間の年齢が影響するのかもしれないし、単に個人的なたまたまの事象かもしれません。

とは言え、マッティ・ペロンパーの来日時に劇場に行けなかったことは一生悔やまれます。あの頃、もうちょっと真剣に観ておくんだったと今更ながら。 Movie Booでまだ紹介していない作品も多いですが、全作制覇と処女長編作品記念で、作品を網羅しておきましょう。
(※ 2011年の新作来たので追記しています)

  • CM:日本触媒(1992)

アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)は1957年生まれ。評論家の後にシナリオや助監督で映画に携わり、80年に映画出演、83年に初の長編映画「罪と罰」で注目、「過去のない男」でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞。 兄であるミカ・カウリスマキと共同で映画製作会社や映画館を経営しています。

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