「実話を元にしていますが大きく脚色しております」と冒頭で宣言され、続いて洒落た音楽とスパイの小道具っぽい映像が流れます。気を引く良いスタートです。
「インフォーマント!」のこの洒落たオープニングはiTunes Storeで予告編としてみることができまして、下手な配給会社の予告編より冒頭を流すだけのほうがよほど効果的であることをまたも立証した形となりました。つまり、この冒頭を見て興味を持ちまして拝見する運びとなったわけです。
実際の事件とは1990年代前半に起きた国際価格カルテルの事件で、2000年頃FBIの入手した映像と共に明らかになりました。日本でも新聞を賑わせたのを記憶している方もおられると思います。
アメリカの大手ADM社を中心とした、味の素、協和発酵を含む日米韓5社が飼料添加物リジンを巡り価格や販売量の取り決めを行ったとされる事件です。
FBIが隠し撮りした映像にはメンバーの談笑まで事細かに記録されており、大きな話題になりました。
と、このような事件にまつわる映画なのですが、基本コミカル進行です。
マット・デイモンが小太りのADM重役に扮して言葉と独白をまくし立てます。この独白の入り方が実に面白い。
主人公の饒舌は映画全編に散りばめられており、とぼけた無表情の中に秘められた野心や自信、拡散する精神活動をたっぷり描写します。
マット・デイモンの新たな魅力に満ちています。
FBIの二人の捜査官がまたいい味を出しています。人情派のブライアン・シェパード(スコット・バクラ)と厳しいボブ(ジョエル・マクヘイル)です。この二人の味わいはかなりのものです。もう、なんというか、可哀想というかかわいいというか哀れというか、いい脚本と役者の持ち味が一致した気持ちの良い登場人物です。
そして重要なのが主人公の奥さんジンジャー。メラニー・リンスキー演じるこの奥さんがまた良い。最初から不思議な役割設定で、謎性も持っています。後半は魅力が炸裂、変すぎて気持ちがいいです。
メラニー・リンスキーと言えば、その強烈なデビュー作「乙女の祈り」(ピーター・ジャクソン:1994)を思わないではおれません。「乙女の祈り」見ましたかみなさん。あの乙女ポウリーンが今や こんなにも美しく変な人になろうとは、感慨深いですね。
「父親たちの星条旗」「ニュースの天才」にも出てます。
そういえば本作「インフォーマント!」を見ていると「ニュースの天才」(ビリー・レイ:2003)を思い出さずにはいられません。作品は全然違いますが主人公の虚言と饒舌という意味ではよく似ています。
言葉と心の二段構えの饒舌の果てに主人公マーク・ウィテカーが行き着く先は何なのか。最も効果的な演出が最後のほうで見られます。ぞわっとするこのシーンの強烈さこそが、これまでの「二段構え饒舌技法」の最適な帰結であります。
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