教師と作家のインテリ夫婦。しかし働き者は教師である奥さんのほうで、作家の夫はどちらかというと自由業気質の怠け者。この夫婦が静かな林の中に佇む中古物件を手に入れ夫婦でリフォームに励む「夫婦でDIY物語」です。嘘です。
ですがこの中古物件とリフォーム途中の感じがなかなか良いのです。あぁ、こういう屋敷が欲しい。面白い。どこに手を入れよう。わくわく。
働き者のしっかり奥さんと怠け者の夫が他人とは思えなくて、わくわく感やダメダメ感が伝染します。
というわけで「ベビー・ルーム」に引き続き夫婦DIY物語(違)を立て続けに観ることになって我が家の改装計画熱も再燃・・・しなかったのですが、そんなことはどうでもよろしいです。
さて「正体不明 THEM」ですが、このB級臭い邦題が本当に勿体ない良作です。これすごいです。
原題はそのものずばりの単純なものですが、同時期に同じタイトルの映画が他にあり、「正体不明」を付け足したようです。
実話ベースですよ。これ、実話ですってよ。恐ろしすぎるじゃありませんか。実際の事件をホラーとして映画化することに関する倫理的な考察は横に置いといて、実話と言っても事件が事実なだけで、もちろん詳細は創作です。
で、その詳細部分、怖さの演出は抜群。緊張と恐怖に支配されます。ジャンルとしてのフレンチ・ホラーとは少し違うかもしれませんが、フレンチ・ホラーが持つ大真面目な演出と同等の恐怖です。
正体不明の何ものかにこれでもかと怖い攻撃をされるインテリ夫婦。
越したばかりの大きな屋敷が仇となり、理知的な性質が足枷となり、ギャグ寸前のじらし攻撃すら躁状態の狂気を思わせる恐怖演出として成立します。
この映画は大きなストーリーの展開があまりなく、短い尺の中で徐々に恐怖を盛り上げ、戦慄のクライマックスへ真っ直ぐに向かいます。映画的にはシンプルです。だからこそ、前半の夫婦でDIY(違)の丁寧な描写が効いて、怖さがリアルなんですよね。
監督のダヴィド・モローとサヴィエ・パリュのコンビはこの映画の後、2008年にオキサイド・パンの大ヒット香港/シンガポール映画「the EYE 【アイ】」のハリウッドリメイク「アイズ」を監督しました。他に作品の紹介が見あたりません。本作で認められていきなりハリウッド。オリジナルは観ましたが「アイズ」は未見。ヒットしたんでしょうかどうでしょうか。それによっては彼らの未来は・・・。
教師で妻のクレモンティーヌ演じるオリヴィア・ボナミーは本作と「ブラッディ・マロリー」(2002)で主演した他は「リード・マイ・リップス」(2001)「やがて復讐という名の雨」(2007)「PARIS」(2008)など、いろんなタイプの映画に出演、大物たちとの共演もしておられますがけっこう地味めな方でしょうか。いい感じなんですけどね。ていうか女優なら誰でもいい感じに見える私が病気ですか。
さて本作、オチのネタバレを喰らっていたら面白さ半減どころか、ほとんど面白くも怖くもないつまらない映画と思うかもしれません。怖さの根っこが正体不明の何ものかですから、正体を知って観たらそりゃ怖さも半減でしょう。これは映画的価値が低いと言うよりサスペンス系ホラーの宿命ですから仕方ありません。
もしこの映画を知らず、ちょっと興味を持って観てみようかなと思ったあなたは今この瞬間からタイトルを検索したり、他の人の感想文やあらすじを読んでみようなどと思わないことです。さくっと観て楽しみ、恐れおののく権利はあなたのものです。そこで一句。
ネタバレを 喰らって悔やむ サーチかな。
恐怖と戦慄を保証します。
2009.10.25
保証した癖に怖くなかったぞコラという人にはごめんね。
ビックリした怖かった戦慄したという人はともだち
こんな映画は観ません。という人は・・・他の映画をどうぞ
“正体不明 THEM” への1件の返信