さて困った。この手のミステリー映画をネタバレなしに紹介するのは高難易度すぎます。紹介する文脈はただひとつ。
主人公は連邦保安官のテディ。相棒チャックと共に孤島に降り立ちます。孤島は精神病の犯罪者を収容する施設で、治療の実験や隔離を目的としています。ここでひとりの女性患者が失踪したことを受け、捜査にやってきたのです。消えた女を捜せっ、です。
しかしただのミステリーではありません。連邦保安官テディにはこの孤島の収容所の秘密を探り出すという個人的目論見もあったのです・・・。
紹介としては、もうこれで十分ですね。あとは観て楽しみましょう。
実は私も、普通の謎解きミステリーだと思って観てみました。おかげで楽しめましたよ。
世の中には、ちょっとでも気になった映画があれば観るまで一切の情報を遮断するという情報強者の映画ファンがいます。このご時世に情報を遮断することが如何に至難のわざか、みなさま十分に判っておられましょう。わし、がんばった。
さてそれを踏まえて以下ですが、未見の方は要注意。ネタバレしていなくても、ミステリーに情報は害悪でしかありません。ミステリを楽しみたければ、いかなるレビューも紹介文も読んではいけません。ね。これから本作を楽しもうという方なら、以下はお読みにならないほうがよろしいかと思います。
で、そういうわけで本作ですが、さて困った。
マーティン・スコセッシ監督はどんなつもりでこの映画を作ったのでしょう。中心のテーマは何でしょう。一番描きたかったことは何でしょう。
それが何かによって、この映画の感想が大きく変わってくるんですよね。
単なるどんでん返しのパズルか?だとすればちょっぴり惜しいと思えたりします。最初からわりとバレバレだからです。だからこれは、単にどんでん返しを目的とした映画ではないということが分かります。どちらかというと、寧ろオチ中心主義へとミスリードすることを狙ったのではないでしょうか。
精神疾患の映像化か?だとすれば割といい線いってます。
しかしそれがメインのテーマだとすると、幻覚や妄想シーンの毒気の弱さも少し感じます。と、いうのもこのテーマの映画ってのは、実験的あるいは文学的な映画となり即ちマイナー系インディーズ映画の範疇であって決してヒット映画にはなりにくいです。それをヒット映画にしようと思えば、判りやすくアレンジするしかありません。そうなれば攻撃性が弱まります。というかそう受け取られがちです。今は70年代じゃないのだから、娯楽性と攻撃性が両立しにくいのです。「タクシー・ドライバー」の頃とは時代が違うのです。
哀しみをもたらすひとりの男の物語か? だとすればとても上手くいっていますし、見応えのあるいい映画です。
というわけで結論としてはこれです。ミステリや精神病棟はそのための味付けであり映画に広がりをもたらす要因です。しかしもちろんただの味付けじゃありませんんで、きっちりがっつり見応えを付加します。
このテーマを前提にするとエンディングの素晴らしさが強調されます。最後のほうのあのようなシーンも納得できます。素晴らしい映画であると断言できます。
ただひとつ、やや残念なのは最後のほうのお家と池の例の大事なあのシーンです。あれは個人的にちょっとだけ残念でした。極めて重要な場面であるはずなのに、何だかさほどのことではないお話になってしまったように感じたんです。暴力性、異常性、重大なトラウマ、これまで溜めてきた伏線が少々萎んでしまうと感じました。説明的すぎるし物語を収束させすぎのように思えました。
それは個人の好みなのでいいとして、なにしろエンディングはいいですね。悲しくも哀れです。全体的にとてもよい映画だと思います。冒頭や随所に見られる渋い演出も流石という感じですしディカプリオの演技も光ってます。
冒頭、船のシーンで煙草がなくなって相棒に貰うシーンがあります。「おや?」と思わせるいいシーンですね。
「最初からなかったんじゃないのか」と思わせてくれると同時に、ここであえて不自然な絵作りを見せます。この合成の画面を見て「懐かしい」と「嘘くさい」と「いい雰囲気」「とても良い」の全部を感じ取るのですが、この演出、渋すぎます。とても好きです。この変な雰囲気の古風なマット合成シーンは映画途中の車に乗るシーンなどでも登場しますよね。映画全体のミスリードを誘う上手い技法ですね。多くの人が「真相は○○だろ」と漠然と気付きます。でもそこで気付かされる事こそミスリード、「何、オチが読めた?結構結構、でも本当に重要なことはそのオチですか?」と突きつけられる気もします。
煙草はとりわけ重要です。紫煙の素晴らしいシーンが何度あったことか。たばこのシーンすばらしい。たばこ自体が素晴らしい。
話はそれますが時代設定がちょっと昔の映画というのは今後も多く作られると思います。そうすれば煙草シーンをたっぷり描けますし、それから携帯電話の釈明シーンを無理矢理入れずに済みます。
と、ここまで書いて公式サイトを見てみて驚愕。なんか子供騙しみたいな、アホみたいな公式サイトにがっかりでした。あの宣伝のやりかたは客を馬鹿にしてますねえ。配給が目論む対象観客ってもしや・・ま、いいか。公式サイトなんかはこの際どうでもいいですね。
余計な先入観を持たず良い映画を楽しみましょう。
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