ハリウッドの花形プロデューサー、グリフィン・ミルの元には毎日たくさん脚本家の売り込みがあります。恨みを抱いてそうなのは足蹴にされた脚本家の誰かだろう、とリストから犯人捜しを行い、目星を付けた人物に会いに行きます。
「やあやあ、連絡できずに放置してごめんね、今日はね、お仕事の話を持ってきたんだよ」と脅迫犯人とおぼしき脚本家に近づきます。花形プロデューサー、小心者です。彼は彼で今の地位を脅かす数々のライバルに囲まれて常に怯えているんです。
「冗談じゃねえや、媚びてるんじゃねえよバカプロデューサーめ」と脚本家は怒り心頭。一悶着ありそうですよ。
と、そんな感じでハリウッドの映画業界を背景にサスペンスが展開しますが、この映画は単なるサスペンス映画と大きく異なる点があります。
人を食ったようなシニカルさで映画・映画業界批評を全編に展開させるメタ映画の技法を使った実験的作品なのです。
映画の中で映画を語り、語られる内容と映画の内容がシンクロします。ハリウッドの娯楽作品に特化したメタ・ネタだから、この映画も基本娯楽作品。だからこの実験的な技法による作品は決して小難しくなったりしません。笑える前衛、おかしなメタ映画なのですね。
映画と映画業界に対する愛と恨みと皮肉とパロディに満ちています。
カチンコに続く8分間にわたるオープニングの長回しは映画史上に残る名シークエンス。スタジオ内を駆け抜けるカメラが多くの業界人の会話を拾っていきます。ヒット映画の二番煎じ脚本を売り込む人、長回しの素晴らしさを語り現代の短いショットを批判する人、スポンサーに媚びる人、これから始まる物語全編を俯瞰するかのように長回しが続きます。このシーンは必見です。
売り込みの脚本家が持ってくるネタはギャグ満載で、例えばこんな感じ。
「めっちゃおもろい映画のネタあるで。大ヒット間違いなしや」
「なになに?」
「それはな、『卒業・パート2』や。25年後のダスティン・ホフマンも出るんやで」
「すごいアイデアあるねん。大ヒットやで」
「どんなん?」
「ジュリア・ロバーツがアフリカに行くねん」
「それはつまり」
「『愛と悲しみのはて』+『ブッシュマン』+『プリティ・ウーマン』や。いけるやろ」
マーティン・スコセッシ(本物)も売り込みに来ます。
「ブルース・ウィリスにぴったりの最強ネタあるで」
「ふむふむ」
「主人公は汚職議員や。社会ネタやで」
「政治スリラーやな」
おっと、マーティン・スコセッシのネタは面白すぎるんでネタバレはやめておきましょう。
と、まあそんな感じでネタ元は製作当時のものなのである程度限定されますが面白いネタがたくさん仕込まれています。
この珍妙な映画には、有名俳優や監督など、ハリウッドの大物達がゲスト・カメオで出演しています。映画に賛同し、ロバート・アルトマンへの敬意を表しているのですね。さすが「俳優たちから最も慕われている監督」と言われるだけのことがあります。
カメオ出演した俳優、監督たちは総勢60名以上、ピーター・フォーク、ジョン・キューザック、ルイーズ・フレッチャー、エリオット・グールド、アンジェリカ・ヒューストン、ジャック・レモン、マルコム・マクドウェル、ニック・ノルティ、ジュリア・ロバーツ、ロッド・スタイガー、スーザン・サランドン、ロバート・ワグナー、リチャード・アンダーソン、ジル・セント・ジョン、リリー・トムリン、ブルース・ウィリス、ハリー・ベラフォンテ、テリー・ガー、ジェームズ・コバーン、ブライアン・トチなどなど、そうそうたる顔ぶれです。
この作品は92年の製作ですので、話題に上るヒット映画や有名俳優たちも当時の人たちです。今から初めてこの作品を観る若い人にとっては知らない人もいるかもしれません。
リアルタイムに経験してきた映画ファンなら「おおっ」と身を乗り出すこと請け合い。
古く感じる部分は仕方ないにしても、この作品は貴重ですね。
映画ファンにしか楽しめない部分も多く、そういうのを厭味に感じる人や、人を食った話を自分が馬鹿にされたように感じる人、パロディやメタテイストが嫌いな人、多重構造に身を委ねられない人には不向きかもしれません。
第45回カンヌ国際映画祭にて監督賞と男優賞を受賞。
ロバート・アルトマンは1970年の「マッシュ」でカンヌ、パルムドールを受賞して脚光を浴び、その後多くの作品を手がけ世界の映画賞を多数受賞、アメリカ映画界では俳優たちに強く敬愛される監督のひとりと言われました。2006年11月没。次回作の構想も練っていたそうですが「今宵、フィッツジェラルド劇場で」が遺作となりました。
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