乙女の祈り

Heavenly Creatures
1954年に実際に起きた事件を題材にした二人の女子高校生の友情と愛と不安と幻想。
乙女の祈り


冒頭、古き良き時代のノスタルジックな映像の後、黄色い声でキャーキャー叫びながら森を走る二人の少女。いくつかのフラッシュバックを交えながら駆け抜けるシーンです。よく見たら血みどろです。この少女たちに何があったのでしょう。

そして物語はこの二人の少女が出会い、仲良しになっていく課程を描きます。
少女の日記をナレーション代わりに、思春期の少女たちの揺れ動く精神を時に生々しく、時に幻想的に、彼女たちの創作する王国の物語や数々の映画スターの名と共に丁寧に描写していく演出力は秀逸、ピーター・ジャクソン、さすがです。

ニュージーランドの美しい景色の描写を見て、後の「ロード・オブ・ザ・リング」で描いた世界の根源を見る思いでした。かの作品で見せたただのCG野郎じゃない説得力の根っこには、こういう風景の中で生きてきた証が含まれていたのだろうと感じます。

主演のポウリーンを演じるメラニー・リンスキー、この子の迫力も大したものですよ。なんとも凄い役を演じきったものです。年頃の娘さんがこのような陰鬱な目つきのこんな役をよくぞやり遂げました。キャンディーズのスーちゃんと同じく、彼女は美しさも秘めております。この映画は18年前の作品なので一足飛びに未来を見てみましょう。ほら案の定べっぴんさんになっておられます。古典絵画のような美しさです。

ジュリエット役のケイト・ウィンスレットの個性的な演技も見事。特徴ある目つき、上品なのか下品なのか判らない口元、しゃんと背筋を伸ばした高貴で傲慢かつ神経質そうでもありか細くも有りという謎性がデビュー作ですでに完成しています。それにしてもノスタルジックな衣装や化粧の似合う事ったらありませんね、この方は。
で、失礼ながらこの女優を見るとどうしても金子国義画伯の絵を思い出してしまうんですよね。

というわけで主演女優二人は精神病的演技の凄さもありアートの香りが強く漂います。そしてこの作品自体もちょっとだけアートっぽい作りだったりします。それがファンタジーに深みをもたらすんですね。ピーター・ジャクソンの古典アートへの傾倒が伺えます。この人の映画の美しさ部分ですね。で、ホラー仕込みの演出との整合性もバッチリです。
さて本作に話を戻しますと、DVDにはちょっと付録があって、文章で映画後のさらに顛末が説明されています。
実のところ、このオマケの一文が最も衝撃的でした。すごいオチが付いたものですね。私はアン・ベリーの読者ではありませんけれども、ファンの人が彼女のカミングアウトに触れたとき、どんな風に感じたでしょうね。

ところで、何がどう転んだらこの映画に「乙女の祈り」なんて馬鹿げた邦題が付くのだろうか。

1994年のヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞、監督賞を受賞。

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