ジャン=ピエール・ジュネ、初期の「デリカテッセン」と「ロスト・チルドレン」の後光がいまだに衰えません。
私は最初「この人、テリー・ギリアムとか好きなんだろうなあ」と軽く好感を持っているにすぎませんでしたが、同時に映像の美しさやファンタジーの系統の独特さに大いに惹かれたのでして、当時の共同監督マルク・キャロとのコンビによるこの2作品、何度も観るうちにどんどん好きになっていっていつの間にやら大ファンになっていて、気がつけば世界的にも巨匠の域に達していて、あぁ自分はいったい今まで何をやっていたのだろうと全然無関係な落ち込みなどを致した次第でございます。
「デリカテッセン」と「ロスト・チルドレン」で一世を風靡したジャン=ピエールさんは案の定ハリウッドから声がかかり「エイリアン4」を監督しました。
このとき、マルク・キャロも最初はいっしょに仕事をしにアメリカに渡りましたがキャロはハリウッドがお気に召さなかったらしく、途中で降板してフランスに帰ってしまいます。このとき以来、ジュネ+キャロのコンビ映画は観ることができなくなりました。
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「デリカテッセン」と「ロスト・チルドレン」の崇拝者はいまでも「キャロがいないジュネなんかクリープを入れないコーヒーみたいなものだ」と原理主義的にこの2作品を異常に持ち上げ、それ以外の作品を否定したりしますが、ファンはそんなわがままを言ってはいけません。
マルク・キャロは「ロスト・チルドレン」でビジュアルを担当していたピトフが監督した「ヴィドック」(2001)でキャラクターデザインを担当して話題になりました。これ面白かったですねえ。綺麗でした。
2008年には「ダンテ01」という作品で久しぶりに監督と脚本です。というか連名なしの単独監督は初ではないでしょうか。長くかかりましたね・・・
ハリウッドに潰される人、反発して避ける人、キャリアとして力を付ける人、いろいろです。
「エイリアン4」はある意味快挙でした。うっかりすればフランスの名匠もハリウッドに殺されかねませんでしたが、エイリアンシリーズというとんでもない大物企画に対して、ジュネ節フランス節を紛れ込ませることに成功しました。もともとエイリアンシリーズ自体が癖のある監督に癖のある演出をさせるという特徴がありますからそれも功を奏したのかもしれません。
ハリウッドに呼ばれたヨーロッパ監督の末路は色々話に聞きますが、ジャン=ピエール・ジュネは「エイリアン4」の後しれっとフランスに戻り「アメリ」を監督します。
このときの共同脚本家ギヨーム・ローラン とは以来コンビを組んでいます。
「アメリ」の予告編を観たときは躍り上がってはしゃいだものです。日本で買い付けた人が後に話題になりましたが、ほんとに彼のおかげでこの素晴らしい映画を観ることができてありがたいことです。ちなみに「えびボクサー」も同じ人が買い付けました。「えびボクサー」も良い映画でした。しかしこの買い付けた会社は想定外の大ヒットでトチ狂い、バブルに踊って破滅した成金と似たような運命に陥ったそうです(真相不明、話半分にお願いします)
「アメリ」はファンタジーと変態性の完全融合でフランス映画らしい美しさやブラックさを内包し本国で大ヒット、日本でも別の意味で大ヒットしました。
個人的には私にも大ヒット、劇場に足を運んだ回数の生涯トップ3に入ってしまいました。
原理主義者たちは「アメリ」の国内での世俗的大キャンペーンに踊らされ「お洒落」「恋愛」「少女マンガ」と、後付けの悪口を吐きちらしておるようですが、そういう人たちの文句はすべてこの映画がヒットした後に展開された大手広告に踊らされただけの哀れな内容であり、乗り遅れたテレビ人間の戯言であると言って差し上げます。
「アメリ」の大ヒットにより、2004年には同じオドレイ・トトゥ主演、ギヨーム・ローラン共同脚本で「ロング・エンゲージメント」を監督しました。
この美しい映画はフランスとアメリカの製作による、ブラックさや変態性を押さえまくったごく普通のちょっと古くさいタイプの物語です。
良い映画なのですが、ジャン=ピエール・ジュネの作品としては首を傾げる部分もあります。私個人は、アメリカの製作による悪い部分が出たのだと思っています。
や、誤解を招きそうなので言っておきますけど良い映画ですよ。
その後「パイの物語」に取り組みますが2年も掛けて進めていたのに予算が確保できずに降板、「ミックマック」まで4年の月日が流れました。
ジュネの他の映画をMovie Booで紹介することがなさそうなので全部まとめてしまって長くなりました。
さてやっとのことで「ミックマック」です。
テリー・ギリアムが「Dr.パルナサス」で羽を伸ばしたのと同じように、本作ではジャン=ピエール・ジュネのイマジネーション が炸裂します。
コミカルでブラック、シニカルでファンタジー、楽しさいっぱいで誰でも楽しめる作品になっています。ちょっとしたエロティックシーンもありますがあんな程度なら子供でもOK、全然問題ありません。
フランスの武器輸出は相当なもので、とてもあんな中小企業みたいなお向かい同士のビルなんてあり得ませんが、そういう漫画的な処理も含めてちょっとした風刺も効いています。効き過ぎてブラックですらあります。
今回はなんとアニメーションが一部登場します。あきらかにモンティ・パイソンに敬意を表しています。ついにモンティ・パイソンへのオマージュを捧げるほどにジャン=ピエールさんは成熟したのですね。感無量です。
登場人物が多彩すぎて映画の尺が足りません。メンバーのひとりひとりをもっと深く掘り下げるような長尺なりスピンオフなりシリーズなりになればいいのに、と思ってしまうほどでした。もったいない、贅沢な編集です。
でも長すぎたりしたらコミカルさが失われ、それこそ「アート系」で括られて終わりとなりかねませんからちょうどいいのかも。
ドレスが舞うシーンがあります。美しくて、もしもっと長尺のどっしりした作品なら泣いてしまいそうなほどの美しさでした。
そうそう。サントラがこれまた素晴らしいですよね。
Micmacs à Tire-Larigot (Bande originale du film) – Raphael Beau
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