「サンズ・オブ・ザ・デッド」のあまりの面白さにコリン・ミニハン監督の作品を見まくったわけですが、どれもが最高に面白いというわけでもなく、中にはやや残念なものもなくはないという感じで、でも懲りずに追っかけておりましたところ「デーモン・インサイド」は「追っかけてて良かった」と思える満足の出来映えで、コリン・ミニハンさすがっ。と、こうなりました。
さてお話は女性同士の夫婦が湖畔の古い屋敷に出向いてその後えらいことになります。
以下、この映画がどう素敵だったかを三つのテーマでお送りします。
この映画の素敵なところその1は、ストーリーテリングが地味で斬新なところです。斬新なんですがその斬新さが地味なのでこの手の映画に慣れていないと気づかないレベルかもしれないところが実に斬新です。あからさまな意外な展開はありませんが、筋の運びが細やかに意外なんです。
冒頭は夫婦でドライブ、古い湖畔の屋敷に向かいまして、ここまではホラー的定番なんですが、軽く予想していたような話から逸れまくり、特に崖っぷちのシーンでは「うわっ」と声が出ます。そして湖のボートのシーンはこの手のスリラー・ホラーの映画ではちょっと見たことがない展開でした。
さらに、怖いことになったあとの日常感というか、逃げない感というか、そういうのもかなり独特です。つまりわけのわからない殺人鬼との対決などでは決してないこの殺人者と被害者の対峙という点においてこの映画はかなりオリジナリティあります。「デーモン・インサイド」の最も大きな特徴ではなかろうかと思います。それは次のその2とも関係します。
この映画の素敵なところその2は「サンズ・オブ・ザ・デッド」と同じ要素、即ち女性的な細やかな演出部分です。コリン・ミニハン監督は女性ではなくてむさ苦しいおっさんですが、女性の細やかなシーンの脚本が実に魅力的でして、この人はおっさんでありますがその中身は女性じゃないかと思えるほどです。
女性の細やかさは例えば血を掃除するシーンで顕著です。「擦るんじゃなくて拭き取るの!」とか言いながら本人もちまちま掃除したりします。また、場面場面でもっとも相応しい格好に速やかに着替えるところも重要。さらにお気に入りのシーンは、さてやるか!っていう気合いのシーンで颯爽と髪を括って出向くところです。このシーン、普通の映画では女性主人公がクライマックスに向けて気合いを入れるような場所でよく見かける演出ですが、これをよりによってこいつにやらせるか、というね。
晩餐会のシーンも究極の女性的変さに満ちたシナリオと言えるでしょう。普通に脚本書いてあのシーンが成り立つなんて誰も思いません。でもやりました。妙に安心しているし、油断してるし、料理まで作っているという。
女性同士の夫婦という設定は思い出の大きさやペンダントシーンにおいて生きてきますが全体的にそれが影響しまくっている感じはあまりしません。でも女性同士の夫婦ならではの細かい部分やストーリーの運びが極めて特徴的なんです。
この映画の素敵なところその3は主人公女優二人が味わいあってたいへんよろしいところです。レズビアンの人にありがちなのか、痩せのほうは少年のように見えるキャラクターです。少年のような女性ですがちょっと賢くて、賢い故に思い出という想像力の産物に苦しみます。最後の展開などは見る人によっては「おいお姉ちゃんアホか。さっさと逃げとけよ」と思うかもしれませんが彼女はそうじゃないんです。記憶が固着してしまう前に決着をつけなきゃならんのですね。そういうのをがんばって演じました。
痩せのジュールを演じたブリタニー・アレンは「サンズ・オブ・ザ・デッド」の主人公もやっていて多彩な女優さんです。「ジグソウ:ソウ・レガシー」や「エクストラ テレストリアル」などたくさんの映画にご出演。
もうひとりの女性は最初ただの可愛子ちゃん役かと思ってたらそうではなく、いろいろと七変化します。華奢なお嬢ちゃんでは全くなく腕っ節も強くて、強靱な態度も様になります。体型も実はたくましいのです。女性夫婦による会話の中で「妻が」というセリフがありますね。妻役、これふつう逆じゃないの?と最初思いますが、映画を見て行くにつれ「確かにこっちの彼女が妻だわ」と判ってきます。このへんも細やかな脚本のなせる技とセットで女優二人の個性がいい影響を与えていると思います。
こちらジャッキーを演じたのはハンナ・エミリー・アンダーソン。この人も「ジグソウ:ソウ・レガシー」に出ていた人です。かなり実力あります。森のシーンも、それから最後の熊のシーンもハマってました。
という、そんなわけで私は「デーモン・インサイド」はかなり良作だと思いました。というか好きです。この面白さは少しマニアックかもしれません。普通に見たらさほど面白くないと思う人もいることでしょう。細かいところを見てください。細部に命が吹き込まれた映画は良い映画です。
ポスターというかカバーアートは日本版のはちょっとどうかなと思います。センセーショナルでデリカシーがないいつもの日本的な悪いデザインセンスが出てしまい「デーモン・インサイド」という忘れられそうな邦題と共に、良作を台無しにしていると感じてしまいますがちょっと言いすぎか。
あと配給が用意しているイントロダクションもいただけません。私がのけぞって驚いた急展開のシーンをイントロみたいにさくっと書いてあります。「アイム・ノット・シリアルキラー」もそうでしたが、物語の中ほどに訪れる驚きのシーンを最初からバラしてしまうとか、そりゃあんまりだよ配給さん。
(下のiTunesの広告の説明がそれ。これから観る人は読まないほうがぜったい楽しめる)