チューリップ・フィーバー

Tulip Fever
17世紀のオランダを舞台にした史劇。史劇といってもシェイクスピアでも史実でもなく小説「チューリップ熱」(デボラ・モガー著)の映画化。信頼のジャスティン・チャドウィック監督によるドラマドラマしたドラマをご堪能。面白いよ!
チューリップ・フィーバー

ジャスティン・チャドウィック監督と言えば知っているのは「おじいさんと草原の小学校」「ブーリン家の姉妹」「マンデラ 自由への長い道」で、いずれも史実・実話の物語でありまして、誰もが見やすい演出と明確なテーマやドラマ性が特徴です。面倒臭そうな歴史劇でもめちゃ面白くドラマを作られましてですね、それでいて軽々しいというわけでもなくみっちり見応えもあったりしますので割とどなたにもおすすめできる信頼のブランド監督だと思っております。そのジャスティン・チャドウィック監督が小説を原作とした物語を作りました。

「チューリップ・フィーバー」はアメリカ資本も入っていて、けっこう元手が掛かっていそうです。どうやら製作費を回収できなかったそうで、こういうのって次の仕事に影響ありますからけっこう心配したりします。が、そんな心配は余計なお世話とも言えます。

17世紀オランダのチューリップフィーバーは皆さまご存じの通りチューリップが投機の対象となり一般市民を巻き込んでとてつもないバブルを引き起こしたあの頃のお話です。最後はバブルがはじけ飛び大変な事態となったのも記憶に新しいところ(新しない新しない)

その時代のお話で、メインは香辛料で財をなしたお金持ちのおうちに孤児院から嫁ぐことになった美しい奥さまの話です。そこに、メイドさんやいつもの魚売り、肖像画を描く画家なんかが絡んできて、基本愛の話ですが純粋ピュアなラブロマンスとは違っていて、これね、だんだん面白くなってきてですね、すごいことになります。ドラマ展開はまあ凄いというか笑えるというか泣けるというか、いつものように古い頭では「手塚治虫の漫画のような」と言いたくなるようなそんなのめり込むストーリーが待ち受けてます。単なる愛の映画じゃないんです。あの愛じゃなくてもっと広い愛です。

製作側のイメージとしてはフェルメールの絵画をベースにした美しい構図とかそういう目論見があったと思いますが、実際のところフェルメールなんかどうでもよくて、それよりも蠢くドラマそのものが大層魅力的です。フェルメール的なのが目的なら「真珠の耳飾りの少女」をご覧ください。

さてここからネタバレですが、商売で財をなしたお金持ちに嫁ぐ話ですから、みんなは勝手にこう思うでしょう。「金持ちの傲慢なご主人を愛してなんかいなくて、それで若い画家に心奪われて破滅的な恋に落ちるのねハート」違います。

何よりこの映画が最高のところを言います。ネタバレですが豪快に言います。お金持ちの主人、なんて役名でしたっけ、コルネリス・サンツフォールトですか。この人、クリストフ・ヴァルツみたいな人が演じてるなあと思って見てたら何とクリストフ・ヴァルツが演じていたのですがそれはともかく、このコルネリスさん、この人がもうね、最高に良いんです。優しくて軽やかで誰も見下さず嫁さんを心から愛していて最悪の仕打ちを受けても尚己を反省する謙虚さに満ちていてさらに楽天的で社交的という、この世にこれ以上いい人いるんですかというほどの最強のいい人で、この人物設定が「チューリップ・フィーバー」のすべてといっても過言じゃありません。

それで、ふと思ったんですがこの映画には心から憎むべき悪人がいません。ご主人もいい人ですが、マリアも魚売りも登場人物すべてがわりとみんないい人でいい感じなんです。多少悪人でも全然悪くありません。あの医者とか酒飲みヘリックも基本いいやつらです。酒飲みなんかロバを鞭打つのを見て「ロバを打つな!」と助けたりします。

登場人物みんないい人で、これは映画を見終えて心が洗われます。

クリストフ・ヴァルツを始め、役者さんも皆一流どころで役と本人の雰囲気がぴったりフィットの填まり役ばかりです。孤児院育ちの若く美しい妻を演じるのは「エクスマキナ」でも皆を魅了したアシリア・ヴィカンダー、若い画家をデイン・デハーン、素朴なマリアをホリデイ・グレインジャー、好感度高い魚売りをジャック・オコンネルが演じまして、皆さん役とよく合ってます。そして修道院の院長、このとっても面白いキャラをベテラン女優ジュディ・デンチがのびのびと演じていまして、修道院長、めちゃいいですよ。

興行成績が振るわなかったらしい「チューリップ・フィーバー」ですが、観たらきっと面白くて心が洗われます。ジャスティン・チャドウィックブランドにハズレなし。

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