ラリー・チャールズ監督「オレの獲物はビンラディン」です。めちゃ気になって仕入れていたものの積んでしまっていました。この手のコメディは旬を過ぎると観る機会を失ったりもう笑えなくなったりしがちです。特にビンラディンとか言うてますからね。どうなんでしょう。と、思いながらもラリー・チャールズ監督なので知らぬ存ぜぬと言うわけにもいかず観たのです。EP-4 unitPでもご一緒してる音楽家の安井麻人氏が面白かったすよと背中を押してくれたのも理由の一つ。
思っていたのといろんな意味で違っていました。何を思っていたかというと、もっとデタラメなモキュメンタリー的なやつかなと思ってたんですがそうではなくもの凄く真っ当なドラマでして、しかもそのドラマの毒のなさも意外でした。
猛毒大好き過剰と逸脱大歓迎のMovieboo筆者ですが、ラリー・チャールズのこのドラマの毒のなさが大いに心に染みまして気に入ってしまいました。これがおとなになるってことなのか。
毒のないドラマ即ち主に主人公と彼女と彼女の娘の仲良しファミリーシークエンスの部分ですね。ここにほんと毒がないんですよ。それどころか、愛があります。こりゃすげえ。どのシーンもすべて穏やかで、不必要に怒りや不安を混入させず、信頼と好感度で埋め尽くされています。この安心は代えがたい魅力でした。
神の啓示を受けてビンラディンを探しにパキスタンに出向く主人公です。いろいろあってパキスタンに到着、そこからのシーンが最高です。
「day 1」から二日目、三日目、このあたりのパキスタンの旅日記は今までのラリー・チャールズ映画でお馴染みの技法を垣間見せる最高の見せ場です。実録なのか演技なのかわからぬような撮り方で、ドキュメンタリータッチに旅情の断片を映し出します。ニコラス・ケイジも激しくノリノリです。こんな楽しそうな姿ありません。観ていて目頭が熱くなります(なりません)
映画全体の中でも抜きん出て楽しい旅日記の数日間です。でも残念ながらこのシークエンスは少なめでしたね。こういうのばかり見せてくれてもよかったのにと思いますが、ラリー・チャールズ先生の啓示によると「そういうのはこれまで散々やってきたから」ということで納得。これは私だけに見えたラリー先生の啓示ですからソースは脳内ですよ。念のため。
そんなわけで見どころはこうです。
- ノリノリのニコラス・ケイジ
- ニコラス・ケイジの親友たちの親友っぷり
- 可愛くて素敵なウェンディ・マクレンドン=コーヴィ
- パキスタンの旅日記およびすべての登場パキスタン人
細かいところではビザ発行のシーンや飛行機に乗るシーンもいいし、船を買うところとか細部がいちいち輝いています。
という「オレの獲物はビンラディン」でした。そして、正直白状しますと、ラストからエンドクレジットにかけて、この映画が本当に実話を基にしていたということを初めて知ることになりまして、まさに驚愕のラストシーンを堪能できました。
最後に余計な一言。
この映画の主人公は面白いくらいに右翼かぶれの愛国者です。ギャグとはいえナショナリスト的セリフも多くて、ぜんぜん嫌味に感じない優れた脚本とニコラス・ケイジの喋り方ですが、それでも製作側には何か一言付け加えたいという欲求が収まらなかったのか、つまり最後のほうでそれとなく「愛国者である。政府は別だが」みたいなことをさらりと言わせます。さりげなく混ぜ込みましたが、重要な一言でした。