「RAW」はなかなか個性的な映画で、いわゆるジャンル映画としてのホラーではないですがホラー的映画で、同時に青春映画であり家族の物語であり少女映画であります。
ジュリア・デュクルノー監督は1983年生まれの女流監督で、この映画は脚本にとても力があります。「遺体安置所」や「鍵かけない」みたいに真面目な伏線がそれとなく配置されていて技巧を感じさせる一方、いかにも少女映画っぽいところがあったり、一見稚拙な風にも見える妙な間の演出で油断させたりしつつグーで殴ってきたりします。
複合的な魅力がある映画でして、めちゃ気分が悪くなる部分とユーモアが完全に同居しています。どろどろ青春グロ映画に見せかけて実に洒落てて垢抜けてるんですよ。
物語はベジタリアンの少女の学園生活です。少女からおとなになる成長物語と言ってもいいでしょう。そういうふうに言っとくほうが誤解を招いてより映画を楽しめます。
新入生に対するパワハラモラハラをしつこく描いたりします。度を超していたりもするし、その中で主人公少女の立ち居振る舞いが少女少女していたりしてグロと少女の残酷さを強調しますが、最初はこの映画の全体像というか、どういう心構えで観るべき映画なのかがとてもわかりにくいというか揺れているというか「何だこの映画は?」と、居心地の悪さを感じたりします。その居心地の悪さが青春映画としての側面です。
で、だんだんストーリーが進行していき、それでも「何だこの映画は?」感が収まるどころか多方向に広がってきて、やがてずっこーんとびっくり展開に襲われます。「そそそそういう映画だったの?!」となります。じわりじわりと進行する予想外の物語は、エンタメ的どんでん返しというより印象的どんでんがえしでありまして、青春少女文芸がブラックジョークとグロホラーに完全融合してバイアスが雪崩れゲシュタルトが崩壊していく知的で垢抜けた逸品であると最後はにやにや笑いながら大満足、こりゃたまらん、最高やなこの映画、とこうなります。
2016年のカンヌで上映され大喝采が起きたそうな。わかります。
ジュリア・デュクルノー監督は「RAW」が長編映画デビューとなる女流監督で、短編映画「Junior」ですでに才能を認められていたとか。トビー・フーパーの大ファンで、源流にあるのは名作「悪魔のいけにえ」であるといいます。超絶美女で才能があるこのような方がホラーに傾倒している姿は「アマリリス」の桃子さんを彷彿とさせ、MovieBooの著者にとっては理想のひとつであり憧れのお花が咲き乱れる状態になるのであります。
主人公の少女ジュスティーヌを演じたのは1998年生まれのギャランス・マリリエ。ジュリア・デュクルノー監督の短編「Junior」に出演していたそうで、本作が長編映画デビュー昨。映画によく合ったとてもいい女優さんでしたね。ややエキゾチックなところもあって良い感じでした。デヴィッド・リンチやデヴィッド・クローネンバーグがお好きなんだとか。
ジュスティーヌの父親役、とても大事な役でしたね。最後はかなり笑かされました。ローラン・リュカはレオス・カラックス「ポーラX」や、MovieBooでも大絶賛マリナ・ドゥ・ヴァン「イン・マイ・スキン」、ファブリス・ドゥ・ヴェルツ「地獄愛」などに出演されているベテラン俳優です。
「RAW 少女のめざめ」は2018年に日本で公開していました。
「紫煙映画を探せ」統合を機にあっちで書いていてこっちに書いていないのを挙げるべくこそこそと作業中。
「RAW 少女のめざめ」は2018年の春に公開していたフレンチ青春ホラー映画です。映画の内容はまあ置いといて、この映画には素敵な喫煙シーンが何ヶ所かあります。ひとつは獣医学部の保健の女医が主人公のアレルギーを診察した直後に雑談しながらその場で煙草を吸うシーンですね。医者しかも女性が診察室で診断直後に煙草を吸いながら患者とお話しします。不愉快極まりないこの映画で数少ない良い人との良いコミュニケーションシーンです。人間味があり暖かい会話に煙草は不可欠。今の時代たいへん珍しいシーンとも言えます。もうひとつは姉の怪我の件で病院にいる父子のシーンです。精神的にくたびれた状態の後、父親が娘に「吸うか」と吸っている煙草を手渡します。娘はそれを受け取り続きで吸いますね。緊張を緩和させる煙草の紫煙は精神安定剤でもあります。また、一本の煙草は親子の愛情も再確認させてくれます。たいへん素晴らしい喫煙シーンでした。
「RAW 少女のめざめ」にはそう多くの喫煙シーンがあるわけではありません。ですが煙草の素晴らしい効用を表現したシーンでありまして、ただの喫煙シーンとは訳が違います。「これは、わざとだな」と見ていて思いました。
こんな良い喫煙シーンを撮る監督はきっと煙草についての思想部長的人間に相違ありません。煙草の効果を心得ているからこそのシーンであり、わざわざ敢えて入れたっぽいからそう思います。
監督のジュリア・デュクルノーは1983年生まれの若手監督で「RAW」公式サイトに素敵な写真が掲載されていました。
ほらやっぱり。こんなポーズの写真をわざわざ撮らせるなんて、ただものではありませんね。煙草の良き理解者であるのは間違いないでしょう。断然支持いたします。
というわけでジュリア・デュクルノー監督の「RAW」は公開終わってますが配信やDVDでどなたでもご覧になれます。映画はかなり個性的で、ちょっときついっすよ。そういう話は本家サイトでいずれ機会があれば。