Mac映画
世にいろんなPOVあれど完全にPCのみを舞台にした作品はまずないと思います。この映画はPCです。もちろん劇場映画ですが、この映画の真髄を堪能するにはPCで観るのがベストかもしれません。
「アンフレンデッド」の舞台はPC画面のみで、おっとPCと言ってもMacです。しかもMacのOSは10.9 Mavericks です。10.10 以降は見た目がかなり不細工でカッコ悪いですし映画映えしません。撮影時期的な理由もあるでしょうが、OSデザインが10.9ベースってのがほんとによかった点です。
ですので、この映画を Mavericks マシンで観ると最も楽しめます。観ている間、自分のMacか映画のMacか判らなくなってきます。映画の最中に通知センターがメッセージ受信を知らせたりしたらもう最高ですよ。あわわわと慌てふためくでしょう。
この映画のことを「SNSホラー」とか「PC画面で進行する」とか紹介されていますが、これは明確にMac映画です。
「映画は終わった」とインテリは言います。終わったんなら終わったなりに次の驚愕のステージに行ってもいいじゃないかと、この映画は突きつけます。劇場鑑賞や投射映像(これ私)にこだわる古来の映画ファンはどう言うか知らんが、今やPC画面や携帯端末でチョロ見するような奴らも大勢いるんだし、それなら居直って映画そのものをPC最適化してやれどうだまいったか。
と、攻撃的です。
そのリアルがストーリーでありアイデア
Mac画面とその操作は(若干の改変があるとは言え)実にリアルです。
Chrome、Facebook、Skype、messageと、お馴染みアプリケーションを駆使してストーリーが進行しますし、ウインドウをずらして後ろのウインドウを引っ張り出し別の検索を行う仕草、通知センターのうるさい通知、虹色ぐるぐるに歯車の待ち状況、そしてメッセージを途中まで書いて送信前に何度もdeleteする心理状況にいたるまで、実際のコンピュータ操作をとことん再現します。これがPC前の日常でありリアルです。
こうしたコンピュータ作業そのものがストーリーであり、この映画のアイデアであり、そのアイデアとストーリーを生かす技法こそがコンピュータ作業の画面であるという、ぐるぐる回る三位一体、これは優れた虚構作品に共通して備わる特徴です。
ウインドウはずらして使うもの
スカイプしながらメッセージで個別やりとり、さらにFacebookのメッセージをチラ見し、参照URLを別ウインドウで見たり、さらに検索したりします。
主人公ブレアちゃんのデスクトップには右上に画像のアイコンが無造作に重ねて置かれています。これ何かというと、ネットの画像かiPhotoだかの画像をドラッグしてデスクトップに置いた跡です。
ブレアちゃんはコンピュータ操作に詳しくない人という設定で、このような使い方が日常のコンピュータの使い方であり特別なことではないということがよくわかります。
dockは左に置くもの
主人公ブレアちゃんのMacはdockが左側にあります。映画にはMacがよく登場しますが、dockの位置を見るとリアルかどうかわかります。ただでさえ短い縦方向のモニターなのに下にdockを置いている人はいません。いや、いますが、ガリガリに使ってる人の多くは左右どちらかに置きます。デスクトップの右側ってのはディスクやアイコンが並びますからそうすると残るは左側しかありません。と、乱暴なことを書いていますがこの部分はわざと冗談で書いてますから誤解なきよう。というのも私もdockを左に置いているからです。
SNSあるある
facebookやmessageを使うシーンはすべてリアルで「あるある」に満ちていますね。この「あるある」をどこまで共感できるでしょう。最近よく聞く話ですが、若い子がパソコンを使えないとか言いますね。「アンフレンデッド」のリアルをリアルに感じ取るコンピュータのある日常をどれくらいの人が過ごしているのか少々気になります。若い人を知らないのでわかりませんが知り合いの年寄りでさえスマホしか使えない人がいますし、コンピュータを使えない人が増えているという噂がもし本当ならちょっと心配になります。
Mavericks
コンピュータがスマホやワープロ専用機より便利なのはMac以来ウインドウの概念が浸透したからです。複数のウインドウを渡り歩き、ときにドラッグしたりときに後ろのウインドウを参照しながら本来複雑な作業をシンプルに行うことができます。
ところが近頃はMacがヘタレてきて、やたらフルスクリーンで使えと押し付けてきます。複数ウインドウの連携をせず、スマホやワープロ専用機やテレビやファミコンのように全画面を専有して一つのことだけを行えと、ユーザーを馬鹿にしてこう言い出してるわけです。
「アンフレンデッド」の舞台が Mavericks でなかったら、なんかの拍子にすぐにフルスクリーンになってしまいあたふたと操作されるウインドウの役割が台無しになってしまったかもしれませんね。
誇張と工夫
この映画のMac操作は実にリアルですが、わずかに工夫もしています。それはテキストのタイプ速度です。主人公もみんなも凄く早くタイピングします。
リアルさで言うと、タイピングに関してはわずかに早送りしています。しかしこの早送りはリアルさを損なわない程度の早送りであり、映画の工夫です。
実はウインドウを開いたり検索したりする動作もわずかに早送りをしている印象を受けます。タイピングだけを早送りにするのではなく、操作全体を均等に早送りすることで嘘くささを消しながら映画の快適テンポを損なわないという工夫を懲らした跡であると判断できます。
リアルタイム映画
Mac操作の若干の早送りも交えながら「アンフレンデッド」が描いたのは上映時間ときっかり一致するストーリーです。虚構作品の技法としての時間の省略や中断を一切行いません。すべてリアルタイム進行です。90分に満たないこの映画の物語は実際に90分です。タイピングの速度を考慮するにしてもせいぜい100分かそこらの物語です。
映画の時間とリアル時間を完全に等しくする技法で作られた映画は過去にいくつもあります。古い映画でもありますし比較的新しいのでもありますね。POVと組み合わせることでリアル感を演出することもできるようになってきました。
いくつか知ってるリアルタイム進行の映画の中でも「アンフレンデッド」の快挙さは群を抜きます。登場人物が一切動かないというのも快挙だと思うからです。過去たくさんあるリアルタイム映画の中で、登場人物が動きもせず会話だけで進行したのは・・・あ、「リミット」がありましたね。あれは動かないどころか登場人物一人だけですから、よりすごいですね。じゃあ、まあこの話はもういいか。
会話劇
登場人物全員が室内から動かず、コンピュータの前に座ってるだけです。会話とチャットのみでストーリーが進行するリアルタイム映画です。そうすると、会話やチャットがすべてと言っていいほどに重要になります。ここが面白くなければただのアイデア倒れとなります。で、どうなのか。すこぶる面白いんです。めちゃ面白いんです。わおーっってなります。
登場人物は若い子たちが何人か出てくるだけです。同じ年頃の若い子たちですから、下手するとおじさんが見て誰が誰だか判らなくなります。でもこの映画はそんなヘマをやらかしません。登場人物ひとりひとりみんな立ちまくっています。PC画面ごしの会話とチャットだけでこれほど登場人物に肉付けできるんですよ。これを脚本の技術と言わず何という。
構成力
エンタメ映画はお客を楽しませようとがんばります。そのための技術やコツなんかもいろいろあるかと思います。良く出来た映画を観るといちいち感心します。登場人物を立てていくのも大事な技法です。わずかの会話や態度で個性を表現します。
ストーリーの流れのなかで、お客をどのように誘導するかってのもあるでしょう。最初はこんなふうに思わせよう、ここらへんで驚かせよう、ここで少し気を抜かせて休みを入れ、そして一気にたたみかけよう、最後は感心させたりうほっと喜ばせよう、こんなふうにお話を考えていったりするかもしれません。
この映画の冒頭はブレアちゃんとボーイフレンドらしいミッチのふたりのやりとりから始まります。最初はこの二人のアホみたいなやりとりにちょっと呆れます「こいつら、あほちゃうのん」と思います。「アホの若者たちが出てくるだけのつまらない映画かも・・」とすら思います。
ところが少し話が進行すると知らぬ間に印象が変わってくるんです。「ブレアちゃん、いい子じゃないか」「ミッチも可愛いやつじゃないか」実に上手いんです。作り手の想定通りにまんまと乗せられます。後半のある部分にいたっては「ミッチ!ミッチ可哀想に!がんばれっ」とか思いますね。かなりまんまと乗せられます。
そんなこんなで乗せられっぱなしで最後を迎え思わず笑い絶叫で「ぎょえー」ってなります。ブレアちゃん、きみちょっとおもろすぎるやろ。
という、作り手の狙い通りにやられます。実に良く出来た話で、それでふと思うんです。PC画面のリアルタイム映画という実験的攻撃的な技法部分をすべてそぎ落としたとき、この映画に何が残るか。
古風ですらあるミステリー的会話劇の妙技
そうなんです。数人のお友達が登場して、会話の中でいろんなことがあぶり出され、印象が二転三転します。この心理劇的で小気味が良く意外な展開も含めるストーリーテリングは古風ですらある「おもしろ物語」の流儀に則っていると気づきます。
「アンフレンデッド」の根底にはすごく真っ当で良く出来た王道としてのシナリオがあったというわけですね。そしてね、タイトルの「アンフレンデッド」を改めてかみしめます。邦題は原題と同じ「アンフレンデッド」ですが、無理に邦題を付けたら「友だちじゃない」ってなりますか。
シェリー・ヘニッグ
純粋に色んな方向に転ぶ面白会話劇として成り立つ上に斬新な技法、文句なしの傑作にはもうひとつ理由があります。出演者です。主演のブレアちゃんを演じたシェリー・ヘニッグのガンバリは見逃せません。
ワーワーキャーキャーやりました。アホな女にもいい人そうな女性にも見えます。「大丈夫、数秒で終わったから!」と言い放つ純粋ピュアで天然かつ酷いやつ。必死の形相の果てに来るチャーミングなラストショット。見事でした。
ミッチとか他のキャラもいいけどここはシェリー・ヘニッグに注目ってことで。
コンピュータの画面でぜひどうぞ
たいていの映画は劇場で見逃すと悔しく思うものですが「アンフレンデッド」はそんなふうに思えません。いい意味で。発売されましたんで、これはDVDとか配信とかレンタルとか何でもいいんで手に入れて、ぜひMacで見ることをおすすめします。あまり画面が小さいとそれはそれでアレなんで、理想は27インチのiMacですか。それで見れば面白さ倍増間違い無し。普段この手の映画を見ないMacユーザーやライターさんたちにも強くおすすめしておきます。きっと楽しいすよ。
というわけでブラムハウスの最強おやつ「アンフレンデッド」でみんなも友達をなくそう!