「インサイド」という邦題の「La madriguera」は2016年にできたてほやほやのスペイン映画。なんと本国でも12月の公開という、どうですかこれ。新しいスペイン映画を仕入れてくださってありがとうございます。
La madriguera は「巣穴」という意味でしょうか。まさに巣穴の映画でした。
主人公の作家は優しそうな顔してますが神経を病んでいて家の外に出られません。広場恐怖症?自律神経系のパニック障害ですね。外に出ると動悸がしたりパニクったりします。
そんな作家ですが仕事を抱えていて、なかなか仕上がらないので編集が助手を寄こします。スペイン映画名物の可愛子ちゃん登場。アデリアナ・トレベハーノ演じるカテリーナです。そんでもって、この作家、あろうことかこの優しくて元気な可愛子ちゃんを監禁してしまうという、犯罪者の映画です。
見どころはスペイン語です。もう大概の場合、早口のスペイン語を聞いてるだけで楽しいので映画の出来にはこだわりません。
残念なところもあります。ですがそんなのは不問にします。
プロデューサーで脚本も書いてる俳優のフランシスコ・コンデが主演してキモ男を演じてます。一人でなにやってんすかという、不思議な映画を作りました。
最近観たホラー映画でも感じましたが、こちら「インサイド」も志が高いんです。きっとあんな映画やこんな映画が好きで、そういう完成度を目指したのであろうことは明白です。
例えば監禁事件ですが監禁中に女の子が書いた原稿の校正をするというシーンがしつこく出てきたりします。
あるいは一瞬被害者が加害者に感情移入してしまったりする展開があります。
多分、ソリッドナチュラルリアリティ系人間心理の複雑と順応、作家の知性と狂気なんてものを多面的に描きたかったんではなかろうかと思います。とても高いところを目指している感じを受けます。
音楽もクラシックで攻めたりしますし、ぐっとくる犯罪映画を目指しました。ある程度、雰囲気作りには成功しています。
でも面白かったのはそこだけじゃないんですね。犯罪よりこだわりのリフォーム工事を一人がんばってるとか、近所の子供の昔の映画みたいな演技とか、行方不明の女性を探す刑事が持っている写真がアイドル写真みたいなのだったりとか、そっちの面白さのほうが勝ってます。残念ながらこちらにはあまりぐっとくるお話に見えず「無理して辛気くさい映画作らなくてももっと面白くできたろうに」などと見当違いの感想を持ってしまいました。
「カニバル」という映画を思い出しました。深刻に文芸的に猟奇犯罪を描く映画でしたが、あれもわずかにズレてるんですよね。深刻で文芸の路線がスペイン映画の人たちに合っていないんじゃないかとすら思えます。
と思ったら製作で脚本で主演のフランシスコ・コンデは「カニバル」にも出演していました。
うむ。まあ、文芸路線が悪いとはいいません。全然出来てないとも思いません。それなりにいい出来とは思います。だからこれ以上茶化したようなことを言うのはやめますすいませんでした。
神経を病んだ男と元気な女性の犯罪物語。根底には愛情があるから人非人の極悪人でもなく、でも怖くて、でも何か油断してしまいそうで、でも油断してると大変な目に遭わされたりして、そんな一筋縄ではいかない妙な日常ってのを脚本の主軸に置いているのかもしれません。そう思うとなかなか個性的なよい映画ではないかと思えます。