デッド・ハンティング

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「デッド・ハンティング」というどこかで聞いたような邦題のこの映画は、三人の男女が狩りを楽しむために山奥にやってきて恐ろしい目に遭うという、どこかで聞いたような設定のホラー・スリラーです。感想はまあ普通かな。でも普通ってのも悪くないです。
デッド・ハンティング

デッド・ハンティングはどんな映画?こんな映画です。

三人の男女が森で何者かに命を狙われます。

冒頭

「デッド・ハンティング」の冒頭はちょっと昔の映画みたいです。古めかしい演出や音楽で昔感を醸し出します。一瞬、これは古い映画なのかと錯覚するほどです。でも程なくGPSやスマホが出てきますから現代だとわかります。

三人の男女が山奥に向かいます。狩りを楽しむためらしいです。正直、狩りに興味ないどころかちょっと嫌いなほどなので、もうちょっと楽しい理由で山に行けばいいのに、なんて思います。でも後に猟銃や罠を奪われるので必須の設定ですね。

三人の男女は、弟夫婦と兄ちゃんです。序盤はだらだらと彼らの会話を楽しみます。彼らの関係も少し垣間見れたりします。とくにいいドラマが進行するでもなく、かと言って全然ダメな会話シーンでもなく、不思議などうでもいい感に包まれますね。

キャンプをして、寝て起きたらテントや荷物一式盗まれています。中で寝ているのにテントを盗まれるとは大層おちゃめな登場人物たちです。

靴も盗まれるあたりが細かくていいですね。大袈裟なショックシーンより靴下だけで森を歩き回ったりすることが見ていて堪えます。身の丈の想像しやすい不安だからです。

よくある展開

「デッド・ハンティング」は、感想としては大した映画じゃないです。むしろややどうでもいいと思えます。何者かに狙われて追われるだけの話で、誰が追っているのかという点もすでに今まで何度か見たことがある展開、そうですね「NAKED マン・ハンティング」とほぼ同じですね。他にもあるでしょう。雰囲気的には傑作「バイオレンス・レイク」とも被ります。

邦題に「デッド・ハンティング」と付けたんだから、当然マン・ハンティングを意識した上ですね。私はてっきり昔の映画のリメイクかなと思いました。いかにも70年代か80年代にありそうなストーリー展開ですから。実際はそうじゃないと思いますけど、どうなんでしょう。知りません。ネタ元があるんだよ、とか知ってる人は教えてください。という、リメイクかと思えるほどストーリーや展開がありきたりで普通でベーシックなんですよ。あまりにも素直なストーリーに逆に興味がわきます。

こんな映画にも良いシーンがあります。それは仮設トイレの戦闘シーンです。

工事関係の仕事をしたことがある人なら現場の仮設トイレ知ってますよね。今はわりと綺麗にしていますが昔は仮設トイレと言えば地獄の形相でした。

現場のおっさんどもが連日飲み過ぎて翌日壮大に腹を下すのが原因か、あちらこちらに飛び散ったりしていましたね。どうやればこんなところに捻り出せるのか理解出来ない場所にまで、その、ソレが散乱しています。便器の中も清掃が追いつかず、しゃがめば必ず尻にソレが触れるのではないかというほど盛り上がっていて、そしてこうして書いているだけであの強烈な臭いが脳内でよみがえり幻臭となって感じられるほどの臭気が共にあります。それが仮設トイレの昔の姿でした。

「デッド・ハンティング」ではわざわざこの仮設トイレに逃げ込むシーンがあります。この映画の中で最高の見せ場、最高のシーンでした。もうね、最初、裸足で仮設トイレに入るというだけでのけぞります。ここで戦闘シーンがあって、黒髭大脱出ゲームをやったり格闘したりします。挙げ句の果てににこんもり盛り上がった便器の中に発砲して中身が飛び散りあわわわ。

メンテしていない仮設トイレをよく知っている経験者ならこのシーンで声が出てしまうことでしょう。きっと映画を作った人もこのシーンだけが作りたかったに違いありません。

という素晴らしいシーンが一つありまして、他はあまりぱっとしませんが、ひとつあればいいですよ。十分楽しみました。

なぜありきたりで普通なのか

ここである考察を行います。この映画には、奇をてらったり新しい試みだったり今までなかった、みたいなものがまるでありません。冒頭から何から何まで「かつて見たことがあるようなホラー・スリラー映画」です。トイレのシーンは良かったけど。

なぜこのような映画を作ろうとしたのだろうと思います。ありきたりで普通でどこかで見たことがあるような映画というものは確かに世の中にたくさん存在していそうです。それらが作られる理由を想像するに、それは二つあります。

ひとつは商業的に安価で量産できて特に良くもないけど特に嫌われもしないからです。

「ジャンル映画」というくくりで、観る人が過剰に期待せず、想像通りにストーリーが進む心地よさを提供します。グラインドハウスやB級好きのそんなゾーンが存在します。私もそのゾーンにいます。おやつとか言ってどうでも良さそうなホラーを好んで観ます。ただ、おやつの中にも激うまのおやつがありまして、それを求めているというのもありますけど。

もうひとつは制作陣がそういうゾーンの人だから説です。

映画や音楽や絵を作ったりする人のことを考えてみましょう。私も作る側の人ですが、どうしてもよくわからない人たちが大勢いることを知っています。ものを作る人あるいは作ることを目指す人は大雑把に二つの傾向に分けられます。

目指すものに憧れが強い人と、批判が強い人の二種類です。

例を示しましょう。ある人が学生の頃バンドを組みました。「バンドやろうぜ」「何のバンド?」「PILのコピーバンド」「いいね」彼らはPILをコピーし、真似をします。
もうひとつ。映画を作りたい学生が集まって「ゾンビ映画つくろうぜ」「いいねやろうやろう」彼らは既存のゾンビ映画をコピーし真似をします。

彼らにとって最高の憧れが既存のPILや既存のゾンビ映画です。目指す到達点もそうです。それ以外はほとんどなにもありません。彼らが作り出すものは模造品に過ぎません。しかしもし実力が多少ともあれば、模造品ながらなかなかイカした作品を作ることにもなりましょう。

説明するまでもないですが、逆に批判的な人間はこうです。「PIL好きだからPILみたいなスタンスでバンドやろうぜ」「攻撃的で誰も聴いたことがない音楽を作ってやる」
「似たようなゾンビ映画ばかり世の中に溢れてるからゾンビ映画の新しいアイデアで勝負したいよね」

そんな映画が大好き!

「デッド・ハンティング」は明らかに前者です。監督はきっとこう考えました。森に出かけた男女が狙われてあれこれ逃げ惑う、やがてありきたりな衝撃の犯人が判明し、女ひとりがどろどろになりながらも反撃する、そんな映画が大好き!そんな映画を作りたい!よし作ろう!きっと楽しいしいい映画になるよ!

「デッド・ハンティング」がつまらないながらも好感触なのは、作り手から伝わるジャンル映画への憧れと愛のためです。そしてそう確信したのは監督がクリストファー・デナムであると知ったからです。

監督 クリストファー・デナム

この人誰?と思ったら俳優でした。キャリアもほとんど俳優です。写真を確認すると、あーこのひと知ってるーという俳優です。スター俳優ではありませんが、たくさん出てる人ですよ。

つい最近は「マネー・モンスター」でプロデューサーの役やってましたね。序盤でバイアグラみたいなのを試していた彼です。「マネー・モンスター」では最後まで目立ってて、アクセントになるいい役でしたし、強く印象を残しました。

俳優が監督に憧れるのはよく聞きます。この人はメジャー映画にも出てる人なのに低予算ホラーを作りました。きっとこんな映画が好きなんですよ。そう思うと好感度が上がりまくります。

スポットライト」という映画がありまして、新聞記者たちのまじめな映画ですが、こんな会話シーンがありました。
「休日は何してた?」
「小説書いてた」
「へえ。どんな小説」
「…ホラー」

あらゆる職業のいろんなところにホラー好き、ホラーを作りたいという人がこっそり生息しています。

いや実は監督かどうかは知らないが

実際にはどうなのかもちろん知りません。この投稿記事はほとんど妄想でできいます。

こんな映画が大好きなのは監督ではなくてプロデューサーの意向かもしれないですし。まあでも意味的には同じことです。

制作陣の誰でもいいですが誰かの「こんな映画が大好き」感はめっぽう伝わります。それがなければただの手抜き映画で好感触を受けないと思うんですね。

クリストファー・デナム監督もしくは製作の誰かは、誰も見たことがないもの凄い映画を作るつもりなど毛頭なく、森で謎の人間に狙われる類いの映画が大好きで、まさにそんな映画を作ろうとして、そして上手に出来ました。

それでいいのだと思うんです。

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