ザ・ボーイ 人形少年の館

The Boy
「ザ・ボーイ 少年人形の館」は住み込みベビーシッターの女性が人形の世話を頼まれてハァ?ってなりながらやがて案の定いろいろと怖いことになっていくというホラー映画。
ザ・ボーイ 人形少年の館

 

大きなお屋敷と不気味な人形。人形ホラーの王道です。ありきたりと言えばありきたりだし、今更なんでこのような映画を?と思わないでもないですが、まあ、軽く楽しむにはちょうどよいかも、などと舐めてかかっていたらこれが意外や意外、実にちゃんとしていて、いやそれどころか展開もいいし力の入ったとても面白い映画でありましたよ。

というか人形が怖い映画、わりと元々好きなんです。特に「ザ・ボーイ」のこの人形みたいなのに見る前からぐっと来まくりです。軽く見てみようなんて言いながら、ほんとのことをいうとすごく楽しみにしてました。

「ザ・ボーイ、まだかなまだかなー」と歌いながら手に入るのを心待ちにしておりました。しかも「ザ・ボーイ」は2016年の映画です。2016年の舶来の映画を2016年のうちに見ることが出来るなんて、そうそうありません。

人形

個人的な話ですが、子供のころ腹話術の人形が怖くて大好きでした。地元の子供のお祭りがあって、トラックの荷台をステージに誂えた腹話術師の芸人さんがやってきたことをよく覚えています。芸の中でこんなネタがありますね。

おじさんと人形が喧嘩して「悪い子はこうしてやる」と、でかいスーツケースに放り込み蓋を閉めます。足だけカバンからはみ出ていて「暗いよう、怖いよう、ここから出して」と人形が言うのを見て「おじさんが喋ってるんでしょ」と判りながらも内心とても怖かったんですよ。そういう怖さと楽しさが複合観念となり記憶に焼き付き、腹話術や操り人形の虜に一時期なっておりました。

そんなこんなで、ずっと後のアンソニー・ホプキンスの「マジック」のときも人形見たさに初日に出向いたし「ザ・ボーイ」の広告で人形のデザインを見た時はそういった懐かしさを伴う憧憬が蘇って、それで一人ワクワクしていたという個人的な事情です。

「ザ・ボーイ」の人形デザイン

映画の感想ですが、とても良いです。何がとても良いのか。いろいろありますが、人形のデザインがまずひとつ。ホラーっぽく下から照明当てたり、微妙に表情が豊かです。人形の造形がとにかくいいんです。この映画のメインですから、気合いも入っていますね。特に怖がらせてやろうっていう媚びたデザインでないところもいいです。

主人公グレタ役 ローレン・コーハン

主人公の女性がこれまたいいんです。ストーリーと密接な演技の部分が特に。だから脚本もいいんですね。脚本もいいですけど、その中で細やかに演技を切り分けたグレタ役ローレン・コーハンの演技もとてもいいんです。

公式サイトによると、もっともやりたくない仕事がホラー映画だったんですって。しかし脚本を読んで夢中になり惹かれたということです。そうですね。惹かれるのもわかります。

主人公女性の心の動きが序盤から中ほどにかけてとても激しいんです。ちょっとネタバレ気味ですが言いますけど、こんな感じです。

冒頭はアメリカからイギリスの遠いお屋敷にやってきた女性という以外、まだどんな人かわかりません。でも丁寧な言葉遣いで英国老夫婦に接しますし、いい人に見えます。ちょっときつい顔してるけどいい人という設定だろうなと思って見ますね。

ベビーシッターなのに世話するのが人形と知って「はぁ?」ってちょっと笑います。この笑いが一瞬ちょっと普通のアメリカ女性みたいになって、でも直後に事情を飲み込み冷静に老夫婦と話します。僅かの表情の変化の中に賢さも垣間見れます。序盤、印象がとてもいいんです。

で、老夫婦が旅に出て直後、態度が一変します。ちょっとぐらい人形の世話をするのかと思ったらいきなりでーんと投げ出して「めんどくせー」みたいになって、正体を露わにします。観ているこっちの方が焦ります。「お姉ちゃん、ちょっとくらいちゃんと仕事したほうが良くないか?」さっきまでとてもいい人に見えたのに何だこの女は、とちょっとなりますね。序盤ですけど、ここひとつのどんでん返しにさえ見えましたよ。

やがて恐ろしいことが徐々に起きて、ようやく人形に注意を向けて改めて世話をするようになってきます。このあたりの心の動きは観ているこちらの恐怖と連動して、恐怖が先にありますけど、だんだんちゃんとしてきます。

「ザ・ボーイ」の本領が発揮されるのはさらにこの後なんですよね。主人公グレタ、恐怖から人形の世話をするようになりますが、これがやがてですね、恐怖からではなくなってくるんですよ。秘密を共有し、愛情すら感じるようになってくるという、この展開は素晴らしいんです。これこそありそうでなかった展開、ストーリーの動きもいいしローレン・コーハンの人形を抱く姿が実に愛らしい、そしてやや不憫でもありまして、この不憫という感情にとことん弱いMovieBoo筆者はわけもなくうろたえるわけです。いや、わけはありましたけど。

考えてみれば、脚本上の主人公女性の設定が良く出来ていたことにも思い当たりますね。彼女のアメリカでの元カレとの暮らしとイギリスでの人形との暮らしは根っこの部分で同じ信じやすくピュアで面倒見のよい成分ってのが共通項としてベースにあります。

グレタの愛情の顛末、これを書くのはネタばれすぎてさすがに避けますが、私はもうこの女性の信じやすくピュア故の不憫さに後半めろめろです。

人形を最初は小馬鹿にしていて、やがて恐怖に変わり、恐怖の中に愛情が芽生えてきます。その後また展開していくというこの「ザ・ボーイ」のプロットがほんとにいい出来映えです。細かな部分はともかく、ストーリーと展開は私は絶品だとおもいます。

監督、プロデューサー、脚本

女優もいいですが監督もいい仕事しました。女優のいい顔やいい演技を上手に捉えたし、そしてなんつっても最後のほうのですね、秘密ですが最後のほうのぬぼーっっていうあるシーンがあって、あれは素晴らしい演出で度肝を抜かれました。

ウィリアム・ブレンド・ベル監督は「デビル・インサイド」の監督ですね。「ザ・ボーイ」は脚本があり、製作のマット・ベレンソンが育て、そして監督が決定したというタイプの映画のようです。監督は抜擢された感じですね。でも大正解。ちょっとお茶目なシーンも含めてとてもいい演出を随所で行いました。

脚本はステイシー・メニヤーというよく知らない人ですが、初期プロットの段階でプロデューサーの目を引いたそうです。

細かいセリフとか、そういうんじゃなくてやはりプロットとストーリーで楽しませてやろうってスタンスの脚本です。これに主人公女性の魅力が加わって、いい映画が一つ出来上がったと、そういう案配ですね。

プロモーション

米国での公開にあわせた時期に、YouTubeにもいくつか上がっていた面白い動画があって、それを見てケタケタ笑ってました。ベビーシッターに応募してきた人を仕掛けのある部屋で待たせるんですね、待たせていると部屋で怪奇現象が起きるというドッキリの一種ですが、あれどこで見た何だっけかなあ。

日本でも夏に公開され、人形ものが好きな人の注目集めました。

予告編にて人形の出来映えもご覧になれます。

この映画に批判的な人は、例えば「オチがわかった」みたいな短絡的批判に傾くかもしれませんが、そこはそうじゃないんです。私が見終わって哀しい思いをしたのはオチがわかったからではなくて、そのオチによる主人女性のピュアな心が不憫すぎるからなんですよ。この映画はプロットも優れていて、あっと驚く展開ってのも魅力の一つですが、「信じていたのに裏切られる」ことを繰り返す女性のストーリーがひとつメインに据えてある映画ということも大事なところなんです。

 

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