ぱっと見た感じスウェーデンかどこかの北欧映画かなと思わせる印象的な写真を用いたチラシです。「孤独のススメ」という邦題もキャッチーですね。気を引きました。
オリジナルは「マッターホルン」という「何?」って思うとぼけたタイトルです。このタイトルには意味がありましたがそれは見る人が知るお楽しみですね。
孤独そうな男がまっすぐ歩いている冒頭から北欧的演出が噴出します。オランダの映画ってほとんど知らないのですが、多分このような北欧的な映画の特徴とは違いますよね?どうなんでしょ。「孤独のススメ」がその手の映画を意識した作品であるのはそれは自然なことなのか狙い通りなのかちょっと判断できません。ディーデリク・エビンゲ監督も知りませんし。
単に表面的に北欧テイストを真似したんなら、それはあまり関心できることではないように思います。ですが大丈夫、だんだん面白くなってきて、じわじわ個性が出てきます。冒頭に感じた北欧臭さも途中から忘れますし、むしろそれは罠だったりします。「孤独のススメ」は実は油断なりません。
最後のほうに至ってはちょっと予想を超えたドラマドラマしたことになってきて、無理矢理な感動シーンにもかかわらずじーんと感動してしまうという、この映画を作るにあたって、すっとぼけたままで最後まで済ませることができなかった映画欲というものも感じとれます。
というかそもそも北欧みたいなどと思うこと自体失礼な話で、あまりそういうことは思わないほうが良いですよね。そのほうが楽しいですし。
真面目で信心深く少々裕福そうですが孤独なおじさんが出会うのは浮浪者じみた髭のおじさんです。おじさんですがもうちょっと若いかな。主人公と比べるとお兄さんといいたくなりますがまあ、おじさんですか。変な髭のおじさんです。この変な髭のおじさんは本当に変な人で、変さをたっぷり楽しめます。コメディ映画の王道にして基本形、変で面白くて温かい人ですね、そういう人とまじめな人が出会って仲良くなっていくお話です。
「もう帰っていいから」と言ってるのにぼーっと立って帰らない変なおじさんに主人公のおじさんは料理を振る舞います。このおじさんは信心深く優しい人なんです。分け与えよを実践しています。食べ物だけに留まらず、泊めてあげたりします。なんだか、変なおじさんのことをちょっと気に入った模様です。
そういう始まりでして、面白いことにもなってきます。面白いことになってきますが「孤独のススメ」の独特なところが徐々に湧き出てきます。
「孤独のススメ」の独特なところとは何か。それは言えません。知らないほうが楽しいです。でも意地悪なので楽しみをちょっと奪いますね。奪われたくない方はここで終了、かいさーん。
信仰心というものがひとつベースとしてあります。主人公はいい人で信心深いです。片方で権威としての宗教も描きますね。権威としての宗教はおっさん同士なかよく暮らしていることを大変嘆かわしい穢れたことであると認識します。
その誤解についてのとても面白いストーリーが構築されます。おっさん同士が仲良くしすぎることで、実に危うい愛の形を感じさせますが、それが誤解なのか、あるいは純粋な愛の形なのか、何なのか、そのあたりですよ。実のところ最重要項目であるわけですね、その視点が。この映画にとって。
ラスト近くにはそういうのが物語となって怒濤のように押し寄せます。これはなかなか鋭いストーリーでした。
これ以上はやはり口をつぐみたいのですが、かつてありそうでなかったテーマであり話です。まさかの展開、まさかの浮き彫りにびっくりしました。
ということでもっと何か言いたそうなところぐっと堪えて登場人物です。
役者さんはもちろん誰も知りません。オランダでは大物俳優なのだとか。
主人公の厳格ながら柔らかく優しい物腰、変なおじさんの無表情の面白さ、教会の月の家圓鏡(橘家圓蔵)さんにも似たあの人のおいしい役どころ、いいですね、そして特別感心したのは後半に登場するある奥さんです。
この奥さん、この女優さんのさばさばした感じの良さっていうのが映画の中でもしかしたら最も重要なポイントだったんではないかと改めて思います。
のんびりした映画と思ってると途中で「そういやあのとき!」と冒頭を思い出させてくれたりとか、家族の件でのミステリー的な脚本も地味に効いてくるし、徐々に明らかになり最後で噴出する映画のベーステーマに驚きと戸惑いと愛を強く感じる意外と心忙しい地味ながら逸品「孤独のススメ」でした。