虹蛇と眠る女

Strangerland
ニコール・キッドマンが祖国オーストラリアで喪失の母を熱演。美しくも攻撃的なオーストラリアの大自然と、喪失感、疎外感に包まれる母親の心理描写に重きを置いたミステリー。
虹蛇と眠る女

ニコール・キッドマンはオーストラリア出身で、オーストラリア籍も持っているそうです。「虹蛇と眠る女」は久しぶりの祖国での主演作品。忽然と姿を消した我が子の行方を追うミステリーですがどちらかというとやや文芸寄り。

オーストラリアの郊外に最近引っ越してきたらしい一家です。薬局を営む夫とその妻、思春期の娘とまだ少年の弟。「こんなところにいつまで住むの?」とか言ってます。いやいや越してきたご様子で、また元の暮らしに戻りたいと考えいるようです。

色気づいて反抗的なお姉ちゃん、時々夢遊病のように夜中に徘徊する弟君、何となく上手くいっていなさそうな夫婦仲。過去に何か事情があった様子の家族で、いろいろと心の問題を抱えてそうです。

そしてある日、子供たちがいなくなります。

子供たちはどこに消えたのか。家出か。事件か。神隠しか。警察にも届けますがなかなか進展しない捜査です。母も必死で探します。消えた子供たちを探す苦悩の母です。

確かにねっちょりした作風です。でもそれは決して悪いことではなくこの映画には必要なねっちょりです。ニコール・キッドマン演じる年頃母さんの折れかけた心をオーストラリアの絶景描写とオーバーラップさせながら描くというこの映画の中心テーマは決してしくじったりしていません。引き込む力を備えています。

風景の美しさは単なる美しさではなくそこには脅威も含まれます。美しい自然は美しいだけではなく攻撃的で容赦がありません。広大な土地や深い空が覆い被さり息もできない苦しさでのしかかります。

という感じで、喪失感にさいなまれ、後悔にも満ち、不審や自己否定にも繋がる焦燥にニコール演じる母であり妻です。大スターニコール・キッドマンがこのような小品に出演し力を入れているのを見るとちょっと嬉しくなりますね。尊敬や好感度が上がるというものです。

という「虹蛇と眠る女」ですが、だからといって褒めちぎりません。惜しい一品です。最も惜しいのは「虹蛇と眠る女」というこの邦題ですね。オーストラリアの虹蛇の伝承について本編で少し触れられますし、自然の驚異を象徴する言葉としてはいいのですが特に虹蛇が最重要事項というわけではありません。これは誤解を誘発させると思います。

苦悩する母であり妻であり女であるニコール・キッドマン演じるキャサリンです。このキャサリンのですね、苦悩から崩壊にいたる過程というものが大事なわけですが、ちょっと演出的に無理なところも感じてしまいます。高度な演技力でカバーしますが、演出のせいか脚本のせいか、カバー仕切れていない部分を感じます。

好みの問題でありますが、ドラマをじっとりねっちょり描く中で、一部を除いてあまり登場人物が立ってきません。わずかな言葉や仕草に人物設定を込めまくる高度な映画を観すぎているせいかもしれませんが、苦悩を苦悩することでのみ表現するといいましょうか、捻りがなくてやや単純に思えてしまいます。そのせいで、最後のほうのニコール・キッドマンの驚く行動のシーンなど「なんで?ちょっとやりすぎちゃう?」って思ってしまいました。

まあそんな感じで、些細ですが個人的な重要な点がやや力不足だった惜しい一品。キム・ファラント監督はこれが初長編映画ということで、おぉそれなら少々のことはしかたあるまい、と擁護したくもなっってきます。

批評家という連中は見る目は鋭いかもしれないが面白味のないことを言うのでして、例えばちょっとひっかかったニコール・キッドマンのあのシーンに対して「何の必然もない取って付けたサービスシーン」だの「話題にして客寄せが目的」だのと貶していたという噂をちらと聞いたりして「その通りかもしれないがそれがどうした!」と失礼な物言いに憤ったものです。でも又聞きな上に今適当に書いただけなのでそう思っていて言うのが憚れるから架空の批評家から引用したように見せかけてそれを書いて保身のために擁護のふりをしただけという己の浅ましさも感じ取れましたのでもう自分が嫌になっちゃう。

細かい演出の力はあまりないけど、大自然の恐怖を伴う姿の撮影や、脚本的にはミステリーの落としどころもとても良いと思います。弟君可哀想だし。監督がどういう風にこの映画を演出したかったか、それはとてもよく伝わるんです。少し努力して、それが出来ているという風に想像して補いながらこの映画を観ると、すごく良いとわかりますよ。

と、私はそんなふうに擁護の方向で捉えています。


予告編の終わりの方でも虹蛇虹蛇と言うておりますがどうなのそれ

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