冴えない中年男をジェフ・ダニエルズが演じてまして、ヒロインにエマ・ストーン、イマジナリーヒーローにライアン・レイノルズという、ちょっと売れそうなタイトルですが公開当時は日本で紹介されず遅れて商品化されました。有名俳優が出演していますが内容はちょっとしたハートフルドラマなので仕入れ値と日本での見込みが合わなかったんでしょうか。懐事情の勘ぐりはどうでもいいですけど。
イマジナリーフレンド(心が作り出した見えない友だち)を飼っているのは、普通の映画では大抵心に傷を持つ子供です。「ペーパーマン」ではいい年こいた作家のおじさんが飼ってます。設定的には普通の映画みたいに少年時代にイマジナリーフレンドを飼い始めたということです。ちょっと変わってるのはそれが普通のフレンドではなくスーパーヒーローのミスター・エクセレントなんですね。で、そのまま大人になっておじさんの年齢に達してもまだ子供時代のイマジナリーフレンドをずっと飼っているという、そういうことですね。
ライアン・レイノルズという俳優は何とかいう大ヒット映画でスターだそうですが私は「ハッピー・ボイス・キラー」しか知りませんで、「ハッピー・ボイス・キラー」があまりにも面白く、そして主人公の統合失調ぶりがとても良かったので「ペーパーマン」も観てみたいなと思ってそれで観ました。きょとんとすっとぼけた分裂気味の顔と声芸が達者で、有能な気違い系コメディアンですね(←違)
さて内容は作家のおじさんと高校生の女の子の淡い恋の物語です。女の子の役をやったのはエマ・ストーンで、とびきり美少女ってわけでもなくハスキーボイスの個性派で、でも演技が上手なので可愛げが強調されるという、そんな女優さんです。個性派である証拠にスパイダーマンの彼女の役もやりました。キルステン・ダンストとかエマ・ストーンとか、今時のちょっとヘチャな個性派女優は常にスパイダーマンと共にあります。
高校生と中年男の淡い恋物語ですが変態ロリコン映画になることを極力押さえ込みつつ、かと言ってそういうネタに対してまったく知らぬふりをして避けるでもなく、なかなか微妙な線をついている映画です。ちょっと脚本的にはくっさい系の部分が目につく部分もありましたが、おっさんが純粋ピュアに若い子に惹かれるというそのことを描こうとした点については心意気を買います。
今や巨匠の域であるマイケル・ウィンターボトム監督も「天使が消えた街」で同じ感情を描こうとしました。「天使が消えた街」もおじさんの年齢に達した映画監督がキラキラ少女に特別な愛情を感じます。この気持ちは私もよく分かると一応賛同しておきますが、いざこれを表現しようとするとどうしてもくっさいシーンが登場したり無理してるように見えたり嘘くさかったりピュアであることがピュアであるからこそ変態的に見えたりします。これは避けられないことであると思われます。そしてピュアであることが変態的であることもまた間違いのないことだと私は知っております。
「天使が消えた街」の映画監督は少女にピュアに惹かれつつ、片方ではおとなの女とおとなの付き合いができるおとなです。「ペーパーマン」の作家は金持ちの奥さんがいる設定ですが基本的にピーターパン症候群的な頭の中は少年でガイキチ一歩手前の設定です。ジェフ・ダニエルズが上手に演じましたが、それでもところどころきつく感じたりしました。イメージとしてロビン・ウィリアムズなんかを念頭に置いたキャラクターなのかもしれないななどと失礼なことをちょっと思ったり。
面白かったシーンは酒場で次の著作の話をして盛り上がるシーンです。「俺の女房は牡蠣の早剥きが自慢だ」みたいな会話とか。ところどころに漁師町であることが示される小さなエピソードがあって、そういう部分はよい味になっております。
観る前に期待していたライアン・レイノルズのキャプテン・エクセレントは随所で笑わせてくれますが後半はすっかり地味な存在です。まあでもやっぱりこの人は面白いですね。スーパーヒーローのパロディは少々うんざりでも役者の力でふんばりました。今後も真抜けた役をやって笑わせてほしいですね。
というわけでコメディというよりラブコメ系青春映画みたいなちょっとした映画でした。脚本上の臭みが少し鼻につくもののぎりぎり踏ん張ったのでよしとします。優しい演出も悪くないですし、監督のふたりのマローニーはご夫婦なんでしょうか、大らかでさくっと軽い演出が嫌味を消す方向に働いていましたね。エマ・ストーンの媚びたような可愛子ちゃんっぷりもとてもよろしいですし(よろしいんかいっ)
心がピュアなおっさんこどもがこっそり観て、きゅんとなってちょっぴり泣いたりしても誰も叱りませんよ。