街角の煙草屋を中心に、複数のエピソードが語られる群像劇風の作品です。それぞれの物語は、あるときは切なく、あるときは心温まる、あるときはドキドキするお話です。
まさに煙草の紫煙のように、空気中に漂い、拡散して溶けていくような物語。あるいは、心に染み入るような、時間の流れを少し遅らせるような、そんな物語。
ジム・ジャームッシュ「コーヒー&シガレッツ」と同様、煙草の持つ緊張と緊張緩和の二律背反的な作用を物語に落とし込んだ、映画全体がまるでカフェでの無駄話のような洒落た作品です。
合理と利益至上主義の世知辛い世の中で、人間性豊かな人が求めているのはまさに紫煙の如き漂う緩さと無駄な時間です。
映画なんてものは無駄な時間の代表格。映画を見て煙草をくゆらせ飲み物を飲んで語る。なんて無駄なことでしょう。そして、なんて文化的で素晴らしいことなんでしょう。
第45回ベルリン国際映画祭特別銀熊賞受賞作品。
2010.4.20
[追記]
2016年年末、リマスター版が作られ上映されることになったようです。なるほどクリスマスにぴったりかもしれませんね。
ほんの少し前の映画と思っていましたけど、今見るとハーヴェイ・カイテルもウィリアム・ハートもみんなも若いし、やっぱり年月が経ってるんですね。
心の渇きに一服。今の時代にこそ必要な紫煙の映画ですね。