子供の頃はゴジラが好きでした。最初の白黒のやつ以外では特にキングギドラが好きでした。あの金ぴかで三つ首の竜には痺れましたね。怪獣カード買ってキングギドラなら当たりと思ってました。しかしほんというとガメラのほうが好きで、特に頭がアイロンの裏側みたいな鳥みたいな、あれ何だっけ、そうだギャオス、ギャオスが好きで、平たいナイフのような光線銃がガメラの腕をざっくり切ってべろんとなって血がびゅーって出るスプラッタ描写に夢中でした。それで、子供の頃から絵を描くのが好きだったので、平たいナイフが人の腕や首を切り取る残虐な絵ばかり描いていまして、今の時代なら間違いなくお医者に連れて行かれて「坊や、辛いことがあったら何でも言ってみてね」と美しい精神科医の女医さんにそそのかされいい気になってあることないことほら吹きまくって困らせて喜んでいたことでしょう。などという自分語りはどうでもよろしい。
で、それ以外には順当に大人になって子供だまし系の怪獣ものに興味を失い、つまり何を言っているかというと、一部大勢いるゴジラファンの方々とは違って、特に興味が継続していたりわくわくするということもなく、この「シン・ゴジラ」にも特別興味があったわけではなかったんですね。
でもしかし、ちょっと仕事の絡みで東宝の美術製作の方を知っていることもあって、そういえば何作目か知らないけど比較的近年のあるゴジラ作品で「あのとき使用した新型銃の細部をデザインして作ったのはおれなんだよ」と語ってくれた方の話なんかを思い出して、どれくらい関わっているか知らないけど無関係なわけないからきっと誰か知ってる人か知ってる人の知ってる人たちが製作に関わったに違いないと思って、それで観に行きました。
そんなわけで純粋ピュアに映画を楽しんだのかセットや美術の隅々を見に行ったのか動機が不純なんですが、それでも「シン・ゴジラ」大いに楽しみました。素直に、とてもいい出来だと思います。
当初はネタバレを気にしていましたがもう今では大丈夫ですよね?「シン・ゴジラ」はゴジラの形態が変化します。エイリアンみたいに、途中途中で何度か姿を変えるんですね。これについてのゴジラマニアの見解は知りませんが私は面白いと思いました。特に最初のおもちゃみたいなやつがとてもいい。何がいいかというとおもちゃみたいなところです。なにやら深刻そうに始まる「シン・ゴジラ」ですが、この映画が純然たる「怪獣映画」であるという宣言に等しいマンガ的な面白い姿です。ただし、ただのおちゃらけではなく、おちゃらけの中に恐怖も交えたとても良いデザインです。
この最初のちびゴジラを見たときにすぐに思い出したのがガバドンの最初の姿です。子供の頃ギャオスが好きでしたがガバドンの第一形態の姿がもっと好きで、この妙で変で安っぽく、安っぽいからこそ純真で無垢な恐怖に満ちた姿の虜でした。子供の落書きであり工場の土管であり魚であり蛙の子であり胎児であるあのガバドンの姿は焼き付きましたね。そのガバドンを彷彿とさせるゴジラの最初の姿でした。
映画部の奥さまによると、シン・ゴジラの最初の形態のあの目はBaBanensの目と同じであるということです。そう言えば少し似ています。あの目はマンガ的目であり死んで溶ける魚の目であり妹の生まれ変わりである鳥の目であるというのがBaBanensの主張ですが、そういう意図とゴジラの最初の形態の目が同じ意図かどうかは知りません。同じなわけないか。でもガバドンとBaBanensの相似は否定しがたいものがあるので、何らかの心的繋がりがないとは言い切れませんね。お前何わけのわからんこと言うとんのじゃ〆るぞコラと今思いましたね。すいません。
ゴジラは順当に変態を繰り返し立派なゴジラとなりますが立派なゴジラになってからもサプライズが用意されていて、そうですね、あの背中攻撃ですね。古来からのゴジラマニアの方々の見解は知りませんが、私はあれも好きです。背中からどばーっって光線銃が出てきて驚いたのなんの。あの強烈なシーンでさえも、笑いとシリアスが同居しています。
そしてど派手なシーンの後静寂が訪れて緩急バランスも計算ずくめです。じーっとして恐怖を盛り上げる演出は、あれはお笑いで「笑うの禁止」っていうのと同じ効果を狙った演出ですね。じーっとしている怖さもよろしゅうございました。
最後はアホみたいな方法でゴジラをやっつけます。電車も活躍するし工事車両も活躍します。子供たちは大喜びでしょう。おとなも喜んでましたか。はい喜びました。
そんなこんなで、特撮もCGも見事だし、美術製作も立派のひとこと。派手さと静寂、冗談とシリアス、緊張と緩和のバランスもいいし、あぁこれはもしかして恥ずかしがることなく世界に出せるレベルかもとちょっと思いました。「グエムルに対抗できるかも!」と観た直後に言ったかもしれません。
ストーリー的に面白かったのは、いろんな部分をちょっぴりリアルに描いたりするくせに「ゴジラ」の存在だけなかったことにしている世界感です。これはちょっとマニアックにすぎるなあと思いましたが、ゴジラを知らない人々に対しても通用するし、実はマニアックなのではなく極めて真っ当なのかなとか思いますがこれに関しては自分の判断は中立性を持たないので何とも言えません。
幼い頃は怪獣映画が好きだったのにすぐに嫌いになったのには自覚している理由があります。それは、人間たちのドラマが参謀本部や軍人や偉いさんどもに偏っていたからです。あの軍人口調や命令口調、使命とか守るとかそういうのがとことん嫌いでした。でもお約束だから「シン・ゴジラ」でもやっぱりそういう連中のドラマとなります。
監督はすごく考え抜いてああいうドラマをくっつけたと思います。軍人役人政治家、相変わらずのポエミーな偉いさんどものドラマになっていますが、少しこれまでの怪獣映画の偉いさんどもとは描き方が異なりますね。これ、お約束の設定を守りながら何とか違うものに仕立て上げようと苦心した結果じゃないかと勝手に思ってます。
ドラマの話をもう少しだけ続けると、ちょっと今までとは違う切り口で描いているものの、それでも結局はこれまでと同じような展開となります。つまり日本を守るために偉いさんや役人どもがみんなしてがんばります。今回は民間会社のみなさんもがんばりましたがトップのエリートたちみんなしてがんばるという点では同じ事です。怪獣映画の宿命というか、これ以上の変化を日本の観客は求めもしないというか、理由や原因はわかりませんが(ほんとはちょっと思いあたることがある)、どうしてもここだけは死守する部分なのでしょうか。
「シン・ゴジラ」はとても良く出来ていて面白いしわーわー盛り上がれます。でもそんなわけで、相変わらずの「偉いさん役人たち参謀本部のみんなで日本がんばろうドラマ」だけはあまり乗れませんでした。テンポが良くてしつこくなかったのがほんと救いです。そうそう、テンポいいんですよね。テンポの良さで帳消しです。見てる間はそれほど不満に思わないし。問題ありません。
完全に素直に「ようこれだけ凄いの作ったなあ」と感嘆して見終えたというのが実際のところです。