その前に一つ。クレジット表記で撮影欄にヨニ・グッドマンの名を書き入れましたが、アニメーション監督です。アニメーション監督という欄を作ってないので無理矢理。すいません。
というわけで、アニメーションです。序盤からしばらくは実写のドラマ、展開してその後はほぼアニメーションによる作品です。チラシに「アニメーションと実写を駆使したダイナミックで独創的な表現」というような表記がありますので誤解を招きますが、実写とアニメの融合でもないし、まぜこぜに出てくるわけでもありません。ある瞬間からこっち、ほぼアニメになります。
ま、その、誤解してたのは私のほうでして、アニメーションを眺めながら実写に戻る演出がもうちょっとあるんじゃないかと勝手に思って、それを待ってしまいました。最後のほうではちょっぴり実写に戻りますが、覚悟をしていなかったこともあり、ちょっと疲れてしまいました。
お話は女優の仕事が減ってきてCGキャラのデータとなる契約をするロビン・ライトの葛藤があって、スキャンしてからのことは描きません。さくっと時間が飛んで、表現技法もアニメになって、幻想的なSFとなります。
「惑星ソラリス」の原作「ソラリスの陽のもとに」でも知られるスタニスワフ・レム「泰平ヨンの未来学会議」の映画化ということですが、どのあたりまで原作に忠実なのかは知りません。
導入部からしばらくは女優ロビン・ライトのお話です。年を取って仕事がなくなってきた女優ロビン・ライトをロビン・ライトが演じてるものだからドキドキします。
「勝手に撮影をばっくれた」「わがままに選り好みした」「スタジオに迷惑かけて人に後始末を押しつけた」「フォレスト・ガンプのころとは違うんだ」と、もうボロクソです。見ているこっちがあたふたします。
あげく「今いくつだ、48か?50か?ん?」「44」「CGで34歳の役を作ってやるよ」とか、大丈夫かと心配になりますが何とプロデューサーにロビン・ライトご本人の名がありまして、製作側と知って一安心です。しかしまあ、ロビン・ライトの役名でここまでけちょんけちょんにやるとはすごい自虐ネタに驚きます。
導入部からCGのスキャンするまではまどろっこしい部分もありますが自虐ギャグを含めてコメディタッチも目立ちます。
みんなで眺めているテレビドラマの夫婦の会話がありまして「君に正直に告白することがあるんだ」「えっ。浮気を白状するの?あたし吐きそう。相手は誰よ」「いや、浮気はしていないんだが、実は」と、その先はいじわるして書きませんが、わりと爆笑です。
で、突如時間が飛び、あわわわと驚いていると突如アニメになり、あわわに拍車が掛かります。
この後は幻想的でトリッキーで、古き良き幻想文学未来SFの形相を帯びてきます。イマジネーション的にもそうですし、アニメーションの技法も古き良きアニメ表現となりますね。
「戦場でワルツを」のアニメはコンピュータグラフィックを駆使した現代的なアニメでしたが、こちらはまあ昔風というか、特徴的な手描きアニメで手間暇惜しまず凄いことになっておりました。未来の幻想SFなのにその技法は1930年代からの昔風アニメーション。絵が動く驚きをダイレクトに観る者に伝えます。
節々に往年のアニメ作品へのオマージュや古い映画のパロディシーンなんかも交えていまして、ユーモアとブラックジョークと自虐ネタとディストピアと絶望未来が完全同居、内容的にも表現技法的にも懐かしい未来という言い方がぴったり当てはまるような、そんな案配でした。
ロビン・ライトの自虐的ネタのなかに「SFには出演しない」てのがありまして、その話の流れで「ホロコーストものにも出ない」なんていう際どい会話もあります。ホロコーストについては少しひっぱりますね。「ホロコーストに出たら賞レースに参加できるのに」とか、「ナチの役も被害者の役もどっちもできるよね」とか子供に言わせたり、これってアリ・フォルマンの壮絶な自虐的ブラックジョークですよね。危うすぎます。
古今東西あらゆるSFで想定される絶望未来はファシズムというか全体主義というか、そっち方面のディストピアとなっています。戦後の全体主義否定に始まる文明人の共通認識だと思うんですね。そしてSFといえば現実社会をカリカチュアライズしたもの。薬物でラリって夢の世界に暮らす未来人はもちろん支配者に娯楽を与えられて現実を直視できないまま夢の世界で喜んで暮らしている洗脳された現代人たちそのままです。荒唐無稽な未来は現代の歪曲した表現に他ならないことを知っているSFの読者たち・・・のはずですが、SFがそのような役割を持っていたのも今は昔、この映画のような古き良きSFに初めて触れて「ただ古くさいだけじゃん」とか思う若い世代がいるのかどうか、それはわかりません。
特に日本という国に関しては「絶望未来=全体主義」の共通認識がすでに失われています。全体主義にもうどっぷり浸かっていて、それが絶望的な出来事であるとわからないんですね。すでに文明国とは言い難い状況です。全体主義者にとって絶望未来は全体主義社会じゃないのですよ、これは恐ろしいことですね。
こうした現状に危機感を持っている人もいますが、筒井さんは「危機感」のことをこう定義しています。「このままでは危ない、と思った時はたいてい手遅れ」
出演はロビン・ライトの他、ハーヴェイ・カイテル、「ザ・ロード」の女の子のような息子を演じたコディ・スミット=マクフィー、「21グラム」「ナイロビの蜂」などのダニー・ヒューストン、「ノア」のサミ・ゲイルなど個性的な有名俳優が出演しています。
ということで、由緒正しい幻想SFで古きアニメーション技法とロビン・ライトの自虐ネタ、「コングレス未来学会議」でした。