「デビルズ・バックボーン」はスペインの内戦を直接テーマにしているわけでも戦争のお話でもありません。そういうのは後の「パンズ・ラビリンス」でしっかり描いてますね。
しかしこの映画のまさにバックボーンのひとつがスペイン内乱にあるのは 間違いなく、特に孤児院の庭に突き刺さった不発弾の存在が作品全体を包み込むシンボルとして大きな役目を果たしています。
孤児院に連れてこられた少年カルロスが幽霊に出会います。どうやらこの施設で死んだらしい少年です。幽霊は何もの?何か伝えたいの?少年はどうなるの?孤児院はどうなるの?外の戦争は?
少年が出会うのは幽霊だけじゃなく、施設のお友達、いじめっ子、先生、その他の人もいますね、不発弾やスペインの空、孤児院の外に広がる荒野、内乱、そして事件。少年の目を通して、現実とファンタジーが融合した世界をこの映画は構築しています。まるでラテン文学のように幽霊や戦争や胎児酒の瓶を同レベルで描いています。そこが魅力です。これはスペインの血ですか。え?監督はメキシコ人?まじか。じゃあラテンの血か。こういう混じり合ったの大好きなんですけど。
混じり合ってるからしてこの映画もジャンル分けが悩ましい映画です。幽霊が出てくるからホラーかというとそうでもなく、完全なファンタジーかというとそうでもなく、サスペンスかというとまあ基本的にサスペンスかもしれないがそれにしてはファンタジーだし。
このノー・ジャンル感がいいんですよね。
ジャンルなどはどうでもいいとして、この映画に出てくるいろいろな断片、イメージは印象深いです。とりわけ、広大な荒野にぽつんと建つ舞台である孤児院とその門は象徴的です。閉じ込められているという感じは、主人公の少年をはじめ大人も全てそうなのですね。先生もお兄さんもお姉さんも皆そうです。幽霊もそうです。瓶詰めの胎児もそうです。そして遠くの街にいる人たちはスペインの内戦によって歴史に閉じ込められています。そういう閉塞感と全体のストーリーの絡みがまた格別です。幽霊や事件や謎解きなどの要素を剥ぎ取っても、良質のスペイン映画という味わいが残るんです。
ギレルモ・デル・トロはホラーやファンタジー系の人でもあるので、怖いシーンや痛いシーンを撮るのがこれがまた上手くて。「パンズ・ラビリンス」の時は、まあ、ほんと驚きましたね。ま、それはパンズ・ラビリンスの時に書きましょうか。
本作とパンズ・ラビリンスは続けざまに見ると格別の味わいがあるかもしれませんですよ。
2010.4.27
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