アメリカが実際に行っていた計画です。スーダンの難民キャンプで育った3600人をアメリカ各地に移住させるという、この人道的な計画は実際には911テロ以降、頓挫してしまいます。
「グッド・ライ」はこの計画の抽選に当たりアメリカに移住することになったスーダンの4人と、彼らに就職を斡旋する米国人女性の物語となっております。
内戦で傷つく少年たちの姿、難民キャンプ、そして渡米後の異文化接点コミカル展開となりますね。やがて心が通じて・・・みたいな、言ってしまえば、ハートフル社会派異人コミュニケーションの類型的な物語であることが想像出来ると思います。
そしてほぼその想像通りの映画です。
私も最初はあまり気にも留めず「ふーん。国際問題と感動と涙の偽善者映画かな」なんて失礼極まりないことを思っていたのですが、監督がフィリップ・ファラルドーだと知って「これは失礼しました」と日和って、それで観ることにしました。フィリップ・ファラルドーは「ぼくたちのムッシュ・ラザール」の監督ですね。あれは良い映画でした。
序盤はスーダンが舞台です。内戦で酷い目に遭い、安全な地を目指して旅をする少年たちです。相当な旅となります。めちゃ歩きます。辛い物語です。やがて難民キャンプに到着するまでが一区切りとなります。
難民キャンプで長年暮らしていた元少年たちが、アメリカ行きの抽選に当たって移住します。
舞台がアメリカに移ってからは、職業斡旋の女性との絡み、異文化での頓珍漢コミュニケーション、仕事などのコミカルな展開となります。
職業斡旋の女性は最初は国際問題にまったく無知ですが、スーダンの彼らと過ごすうちに変化も訪れたりします。この女性が観客一般の感情移入の対象として狂言回しのよい役割を果たします。
さて全体を通して感想を言いますと、いわゆるものすごく普通でまっとうな国際問題社会派泣き笑い劇場となっています。
面白い部分も感動して泣くシーンもわりと類型的なシナリオが目立ちます。さすがに安っぽいとかベタベタであるとか、そこまでは言いませんが、それに限りなく近い普通ドラマのシナリオとなっていまして、実際、ちょっとシナリオ上「さすがにこのベタさはないやろ」というようなシーンもあったりします。
しかしながら、私なんかはその都度「何てベタな表現なんだ」と憤りながらボロボロ泣きました。だってしかたないやんか。あんなシーン出てきたら誰でも泣くわ。
職業斡旋の女性が、それまで何も考えていなかったのにある夜ふと「スーダン」で検索してみるシーンがあるんですが、それだけのことでも涙が出てまいりまして、これなんかは泣かせるシーンですらありません。
じつはこのシーンの重要性ってのを感じまして、それは「無知であった庶民が物事を知るきっかけ」のシーンなのであります。
面白いシーンなんかはわりといい感じで「鶏のジョーク」の引っ張り具合とか、そういうのは好みでした。工場の同僚ふたりもいい感じです。
さて、わりと類型的なシーンも目立つし、ちょっとベタなところもあるし、わかりやすい映画ですが、はっきりいいますけどそれでいいんです。
この映画はアメリカの一般庶民(あわよくば世界の一般庶民)に観てもらうための映画です。啓蒙色が強すぎてもいけません。リアリズムに徹したり、専門家を呻らせるような作風ではだめなんです。お茶の間でみんなが観れるような、それでいて肝心な部分はちゃんと伝わり、これまでスーダンの内戦やアフリカの問題やそういうことに全く関心のなかった人たちに気に留めてもらうことができれば成功であると思いますし、それは上手くいってます。
そうした目線で言うと、むしろかなりよい出来映えと言っていいでしょう。
どなたさまにも取っつきやすいよいドラマが終わったあとは、エンドクレジットの最初にスーダンの白黒写真が映し出されます。ここで実際の現実を端的に示しますね。フィクションはハートフルなちょっといい話で終わりましたが、現実はそんなわけにいきませんと。「映画を見終わったあなたは、もっと多くを知ってください、ぜひ」と強く語りかけているように感じます。
もうひとつ、エンドクレジットでは南スーダン難民救済への支援を求め、URLを示しています。The Good Lie Fund (http://www.thegoodliefund.org) です。この映画、ここまでちゃんとやっております。このファンドまで含め、映画の企画から何から何まで目的に沿っております。スーダンの難民をネタにして感動映画作って稼いじゃえ!みたいな映画とは全く異なります。ですのでこの映画に対して、私はとても好意的です。
「グッド・ライ」で他のいくつか見た似た傾向の映画を思い出します。ひとつは「バビロンの陽光」です。これは映画の内容も素晴らしいものでした。
そういえば「グッド・ライ」の登場人物はみんないい人です。ゲスい映画だったら、ここで敢えて悪者キャラクターを登場させたりしますが、そんな安易なシナリオではありません。皆道徳心を持ち他人のために何とかしてやろうという気持ちを持った人ばかり登場します。
これは「バビロンの陽光」と同じく「現実が酷すぎるので映画でいい人ばかり描いた」ということになるのでしょうか。裏読みしすぎかもしれませんが、そうだとすればやや戦慄します。
わかりやすい展開で多くの人に見てもらおうって感じのドラマ作りで共通した映画としては「おじいさんと草原の小学校」なんてのも思い出しますね。
職業斡旋の女性キャリーを演じたリース・ウィザースプーンという女優さんについてです。
知らないなーどういうひとかなーと思ったら何とすんごく有名なラブコメ映画のスター女優でした。受賞歴もたっぷり、出演作品のリストもたくさんありまして、でもひとつも知らない・・・。映画ってたくさんありますよねえ。
このラブコメ女王リース・ウィザースプーンですが、キャリアを重ねて様々な方面の映画に出演したりプロデュースなんかもしておられるそうです。どんな映画のプロデュースしてるんやろ、と思って見てみたら「ゴーン・ガール」ですって。おお、そうですか。
しかしどこかで見たことある気もするので出演リストをたらたら眺めていたら、あ、やっぱそうだった。「インヒアレント・ヴァイス」に出てました。おーいえーぃ。
[追記]
ちょとだけ追記。
2011年に独立して以降の南スーダンの現状っていうのがありましてですね、深刻な人道危機を迎えています。医療や食料、たくさんの援助が必要です。
また、多くの少年兵の問題なんかもほんと深刻です。少年兵に関してはスーダンに限った話じゃないですが「ジョニー・マッド・ドッグ」や「それでも生きる子供たちへ」など、他の映画でも触れているものがあります。ちょっと重いけど見てみようかななんて思った人はぜひ。
「グッド・ライ」はこういう映画だから事細かに問題を描写したり説明したりしませんがヒントは出しています。映画内の女性のように、映画を見た各々がちょっと時間を見つけて検索したりして実情を知ったり原因の根っこにあるエネルギー利権の問題なんかに触れてですね、考えたり行動したり次の行動の動機にしたり、そういうふうになっていけばいいなと思うわけです。