「恐怖ノ黒洋館」という映画がありましたが、こちらは「恐怖ノ黒鉄扉」です。「恐怖ノ」と邦題に付けるシリーズでもなんでもないシリーズですね。共通点は若手監督ってところでしょうか。製作国ですら共通点ありません。他には「恐怖ノ黒電話」ってのもあるようです。じつはこの「黒電話」はですね、おっとそれは黒電話の時に書きます。
バルセロナ映画学校という学校出身の監督12人による作品ということで、はて、バルセロナ映画学校って何だろう。配給の宣伝文句によると、J・A・バヨナ(永遠のこどもたち、インポッシブル)やキケ・マイーリュ(EVA<エヴァ>)を輩出したということですが、よくわかりません。そのまま「バルセロナ映画学校」で検索しても主にこの「恐怖ノ黒鉄扉」しかヒットしないし。多分、バルセロナにある映画の学校なんでしょう。
若手監督12人が何を撮ったかというと、ホラーテイストのスリラーです。大雑把に言えば、若者何人かがわーわーと廃墟に集まって遊んでるとひとりまたひとりと殺されていきます。そんだけです。
そんだけですが、なんせ12人もの監督がわーわー言いながら共同で作ったという前代未聞の製作技法、まさにそこんところに価値があります。あるのか。もちろんあります。
冒頭、プロローグはちょっといい感じですよ。苛めのシーンです。気の弱そうな子が虐めに遭いボイラー室に閉じ込められます。でもそこで事故発生。ボイラーが点火して大変なことに。うぎゃーっ。
本編では若者たちが殺され、終わり近くでは真相が解明されるという、よくある話では済まされないほどのよくある話です。で、この映画に若手監督たちの新しいアイデアや創意工夫がみなぎっているでしょうか。
うー。そうですね、さほど斬新なアイデアはないかもしれません。でもね、部分的には良いシーンもあります。好意的に見て決して悪くないです。いやむしろ楽しんだ。そう、意外にイケてます。
馬鹿な若者たちの馬鹿なシーンというのがついてまわりますが、登場人物たちは完全な無個性な馬鹿ばかりというわけでなく、ちょっとピュアだったり、うぶな恋だったり、そこいらのヒャッホーたちと少々違ってたりして少し味わいあります。味わいのないやつもおります。
なんと言ってもスペイン人たちのスペイン語の響きってのがいいんですね。なんか、アメリカ映画のコメディを真似たような「粋な会話劇」風のところもあったりしますが、それすらも味わいのうちです。そしてかわいこちゃんのお色気サービスシーンもちゃんとあって物事を良くわかっておられます。スペイン映画と言えば可愛子ちゃん、可愛子ちゃんと言えばスペイン女優です。可愛子ちゃん目当てにこの映画観てもいいです。
ただ、せっかく若手監督の集まりなんだから、若々しいびっくりするような新しいアイデアがあればもっとよかったのにねえ。ちょっと「すでにある」演出やシーンばかりが目立ちました。
まずは模倣からっていう技術の習得について思いを巡らします。
若手監督たち、けっこう真面目なんだろうな。稚拙で荒々しくても「新しいことに挑戦するぜ」っていうやつがあまりいなかった模様です・・・待てよ、いくつか良いシーンあったぞ。「山の魔王」のピアノをバックに、躁状態の被害者たちが繰り広げるシーンとか。クライマックス手前の急展開するところなんかはシナリオ的にも映画的にもかなりグッと来るし、そういえば冒頭もいい感じ、思い出してみれば、好きなシーンがたくさんありました。忘れてた。
「恐怖ノ黒鉄扉」は決して出来損ないでも素人臭い作品でもありません。そう、私はこれとても面白かったし好きな映画です。