若い父ちゃんクラウディオは建築現場で働いています。序盤では現場監督でしょうか、雇われているわけですが、話の途中から新築ビルを一個請け負います。下請け業者となるわけですが、建築の下請けを資金のない個人がおいそれと請け負って上手くいくわけがありません。映画の半分はこの建築現場を請け負う仕事の映画、つまり「はたらくおじさん:建築下請け業者編」としてたっぷり楽しめます。細部の工事シーンが凄くリアル、というほどではないのですが、労働者の気質として「おるおる、こういうやつ、現場におるおる」と現場労働経験者なら誰もが共感し仕事現場のシーンにのめり込ませる力を持っていますね。建築現場のややだらしない部分とかも妙にリアルです。日本の建築現場、大きい現場ではすでに昔話になってしまっているような労働環境のシーンに思わず目頭が熱くなります。現場労働者にお勧めです。
日本の大きな現場では何故昔話になっているかというと、現在のゼネコン系建築現場は奴隷幼稚園状態にあるからです。奴隷・幼稚園・軍隊と言っていいかもしれません。詳しくは昔にどこかに書いたので割愛しますがまあそういうことです。
「我らの生活」は職業人と家族のナチュラル系のドラマではありますが、序盤の段階で衝撃的なエピソードを二つ、いきなり提示して主人公の苦悩を示します。そういう意味ではちっともナチュラル系ではありません。ひとつは奥さんの件、もうひとつは現場のエレベーター穴の件です。そうしておいてから、主人公の暮らしをナチュラルに描くという展開になっています。主人公クラウディオの兄貴や姉貴や友人それから海辺でお店を営んでる女性とその息子なども登場して話を紡ぎます。
基本イタリア映画らしい感情表現たっぷりのドラマです。最初の二つの衝撃シーンを除き、たくさんのドラマがひしめいて、見どころもたくさんあります。
ひとつは子供たちです。幼い息子の兄弟が時々猛烈な可愛さを発揮します。ずっとじゃないですからちびっ子映画ではありませんが、時々見せるこのちびっ子たちの面白さはほんと抜群です。この数カ所のシーンだけでも見てよかったと思える出来。
ひとつは海辺でお店をやっている女性とその息子アンドレイです。特にアンドレイのキャラクターはいい感じでドキドキさせられます。
ひとつは独身の兄貴ですね。いいキャラですよ。最初登場したときなんかみんなのために海で魚を釣ってきたのに、冷血な姉貴に「こんなのいらない。いい魚を買ってきたんだからこっちを食べましょう」と捨てられてしまってもうほんとに可哀想で可哀想で。この兄貴はとてもいいです。
それから映画中最高の連中が登場するシーンがあります。後半なので話を濁しますが、建築現場に颯爽と現れて握手一個で仕事を請け負い、現場前の原っぱで寝泊まりして24時間働き他の業者の3倍のギャラを取るけど必ず期日までに仕上げるというスーパー現場労働者たちです。あれ? 説明を濁せなかった。
こいつらがもうほんとにカッコいいです。登場したときはひとりひとりを舐め回すようにカメラに収めてカッコいいったらありません。うおーっってなります。痺れます。すいませんカッコ良すぎてネタバレしてしまいました。
ドラマの中に、ピリリと効かせた移民に関する社会問題のエピソードが含まれます。これが実にぴりりどころか、我々からするとちょっと信じがたい無茶で深刻なエピソードです。この件が映画を観ていても気になって気になって仕方ありませんでした。
こんなことが実際に「この程度」のエピソードで済まされるというようなことがあるんでしょうか。ないにしても、こうしたドラマが成立するほどに普遍的なんでしょうか。だとすればこれはやはり相当深刻な社会問題と捉えるしかありません。移民の問題は少数の映画作家がこれまでにも描いてきましたが、やはり本当に深刻な部分を描いた作品というのはそうそうないのかもしれません。そんなこともちょっと含ませる脚本となっています。
エリオ・ジェルマーノは2010年のカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞。イタリアのダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞でも3部門受賞しています。日本ではイタリア映画祭2011で「ぼくたちの生活」として上映され、その後2012年に一般公開され、その後DVDでも発売しています。