カニバル

Caníbal
女性を殺し解体して肉にして冷蔵庫に保管して食べる男の物語です。普段は仕立屋の物静かな男で、この主人公をアントニオ・デ・ラ・トレが好演。監督は日本で初めて紹介されるマヌエル・マルティン・クエンカ。なんかちょっと曲者臭がある監督です。
カニバル

ちょっと珍しいと感じるスペイン映画です。まるでフランス映画かオーストリア映画のよう。それもそのはず、製作国にはスペインのほか、ルーマニア、フランス、ロシアのクレジットがされています。

人肉食いの猟奇殺人犯の物語ですが、描き方がヨーロッパ文芸テイスト、静かな佇まいの映画です。直接的なグロシーンなどはありません。
人肉食いの猟奇殺人犯をなんとアントニオ・デ・ラ・トレがやっています。これがもっとも大きな事件ではないでしょうか。こんな渋い役のアントニオ・デ・ラ・トレを見るのは初めてです。でもって、やりとげてます。いやあ、やっぱり実力のある俳優は何でもやれますね。ほんとの仕立屋のように見える身のこなしや些細な動き、特に肉を食べるシーンの演技にはほんとに感心させられます。

姉妹を一人二役で演じたヒロインはオリンピア・メリンテというルーマニア生まれの女優さんで、この方も素敵。

冒頭がすんごくいいです。やや遠くのガソリンスタンドをじっくり映しています。普通にガソリンを入れてるようですね、やがて車が動き出します。と、これをじっとり映した果てに、これがある視点からの構図であったとわかる仕掛けになっていて、この演出で「うわ」と少々のけぞります。その後、この哀れな被害者の車が怖い目に遭うわけでして、ほんとに夜道の運転は怖いです。そしていきなり女性を山小屋に連れ去ります。

映画の中にもうひとつ自動車を使ったあるシーンがあって、それは海辺のカップルのシーンなんですが、このシーンも絶賛です。これは斬新。これは今までありそうでなかったシーンです。どういうのかというと、いや、言いません。ひ・み・つ。斬新で上手で感心しました。

この映画、全体的に文芸映画のようなテイストで描く猟奇殺人鬼の話です。比較的ゆっくりした演技や演出です。変態スリラーのネタでこういう技法は少し珍しいかもしれませんね。でもこの手のテイストを見慣れていないような人でもきっと楽しめるでしょう。例えば普段ホラーとかばっかり見てる人でも「これはいい映画だ!」と思えるような気がします。ただ文芸的で辛気くさいんじゃなくて、構図がよかったり、美しい映像だったり、静かな中にある恐ろしさを上手に演出できているからだと思います。

さてそういう中でMovieBoo的に絶対に外せない注目のシーンがひとつあります。いくら文芸路線でがんばってもスペイン人のなにわ気質がただじゃ済ませません。この真面目な映画の中で、相当にずっこける面白シーンが実はあります。

主人公の仕立て屋の家の中のシーンです。映画ではよく居間のテレビが出てきますね、アメリカ映画なら古いアニメが掛かっていますし、映画によってはこれが古いホラー映画だったりギャング映画だったり社会情勢を映す時事ニュースだったり様々です。この「カニバル」でも一度だけテレビの電源が入っていて何かが映っているシーンがあります。
私は決して映画マニアじゃありませんが、ある部分でマニア的なところも希にあったりします。この居間のテレビにちらりと映った派手な服を着た若者ふたりのシーンを見て、思わず0.5秒で「パッケッテ」と叫んでしまいました。

「パッケッテ」が何かというと「ゴースト・スクール」の序盤シーンなんです。真面目な文芸猟奇映画「カニバル」の仕立て屋が家で「ゴースト・スクール」を見ているという、なんですか、このふざけっぷりは。しかも映ったのは最初の一瞬だけではないんですよね、ちゃんと数秒間映ります。マルティナの住む街のイワシこと駄目教師ラウール・アレバロのアップシーンまで映ります。ちょっとこれ映しすぎです。
この冗談はいったい何事でしょうか。スペイン人はこの映画を観て、シリアスなこのシーンでわははと大笑いするんですよ。私もパッケッテーと大騒ぎで、おかげでこのあとの1分くらいは物語に全然集中していませんでいた。
「パッケッテ」が判らない人は「ゴースト・スクール」に予告編貼ってますので確認してください。予告編では最後のほうにパッケッテのシーンが入っていますよ。

他にも幾分面白いシーンがありますが、そういうのはほんの一部で、基本的にはすごく真面目な映画です。人肉食いの猟奇殺人鬼なのに真面目な映画というのも変ですがそうなんです。
映像がとても綺麗なシーンもたくさんあります。景色が壮絶美しいシーンもあります。
最初に書いたとおり、アントニオ・デ・ラ・トレの見たこともないような渋い演技も見られますし、何か観て得したような気になれる良作でした。

予告編どんなんだろうと思ってみたら、ちょっとネタバレ酷すぎるのでこれから見ようと思う人は予告編を避けるほうがいいでしょう。ネタバレというか、この映画のすべてを親切ナレーションで説明してしまうというデリカシーのかけらもない酷い予告編です。
文芸寄りの真面目ドラマの予告編にはこの手の「すべてを語り尽くす」系ネタバレの予告編がほんとに多いですね。「こうこう、こういう映画です」って、あのな、それは見終わって噛みしめる部分やろーこらー。と。

投稿前ですが追記。というわけもありますから、ここでは「カニバル」の予告編を無視してやっぱり「ゴースト・スクール」を貼っときますね。

パッケッテをご確認いただけましたでしょうか。

「カニバル」は2014年の春頃から公開され順次全国どさ回り、地元京都では今やっています。たぶんどさ回りの最後ですね。DVDの発売が先になっちゃいましたね。いつものことですが。

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