刑務所に入っている父親に時々面会に出向く母と子供たちです。5年間の日常です。バスに乗り電車に乗りてくてく歩きます。時々森に入ったり海で戯れたり公園で遊んだりします。学校の景色も少し映ったりします。
4人の兄妹は本当の兄妹で、5年間の日常ドラマを5年間に渡り撮影して完成させた作品なのですって。
ある意味とても実験的な作品です。
ストーリーはあるにはあるんですけど、設定だけがあってあとは淡々とただ撮ってる感じです。子供たちの仕草はナチュラルで普通の日常のスナップのようです。でも時々ドラマを演じます。
父親不在の半ば母子家庭となった家族を映し出すというのがこの映画の骨子で、ちびっ子成長記録みたいなものです。子供たちの仕草を見ているだけで楽しめるかどうかというのが、この映画に対する耐性を決定づけます。私はもちろん楽しめました。
4人の兄妹はみんなそっくりで、そんでもって普通の意味で面白いです。
一番下のショーンなんか最初は赤ん坊のように見えますが最後は立派な少年に育っていて、見ているこちらも親のような気分に浸れること請け合い。
偽ドキュメンタリーってわけでもないし、子供たちが凄い演技をするすんごいドラマってわけでもなく、何とも不思議な映画でして、これを5年かけて撮り、完成に漕ぎつけたというところがやはり意味のあるところで、そういうところがまさに実験的映画と言える所以なのでしょうね。
両親はもちろん役者さんが演じていて、ちゃんとドラマも紡ぎます。とは言え両親だけがドラマドラマさせてしまえば子供たちの日常シーンと乖離してしまうので、やはりドキュメンタリーチックな日常的なドラマから大きく逸脱することはありません。
ですので、物語的な大きな盛り上がりは特になく、ほんとに淡々としていて面白いです。ちょっとハラハラする部分もありますが、これもやはり浮ついた演出に陥ることなく、日常的な処理を施します。
全体を俯瞰した後、この日常というものの特別感を感じ取れる仕掛けになっておりまして、押しつけがましい「いとしきエブリデイ」などという邦題をつけてしまった気分もわからなくもないです。押しつけがましいけど。
この変な撮り方を実践した監督はマイケル・ウィンターボトムです。お。何やら聞き覚えがありますね。「キラー・インサイド・ミー」のただ者じゃない監督です。そして本作のドキュメンタリーのような作風と近い衝撃作「9 songs」の監督ですね。
他に「ひかりのまち」や「イン・ディス・ワールド」などたくさん作品ありますがそれらは未見ですので知りません。
かなり個性的な監督さんのようです。そして英国を代表する監督でもあります。社会派の側面、人間の深みに切り込む攻撃性、いろんな実験的作風を取り入れる貪欲さなども持っておられるようです。
5年かけたと言っても5年間ベッタリだったわけがなく、多分時々皆で集まっては「よーし映画の続き撮るぞー」とか言って楽しく取ってたんではないでしょうか。
いやしかし「キラー・インサイド・ミー」や「グアンタナモ、僕達が見た真実」を撮っている傍ら、時々4兄妹に会ってはこの映画を撮影していたのかと思うと胸が熱いです。
母親を演じた個性的な女優さんはシャーリー・ヘンダーソンで、「あ、最近見たことある、だれだっけだれだっけ」と思っていたら、あらまあ「フィルス」のあの友人の奥様だったあの方じゃありませんか。あひゃー。と言っても「フィルス」の感想文まだ書いてなかったことに気づきましたが。
子供たちはどこで見つけてきたのか知りませんがカークさんちの坊ちゃん嬢ちゃんたちです。
長女ステファニー、長男ロバート、次女カトリーナ、次男ショーンの四人です。役名も実名のままです。
普通の友人に5年間の成長ビデオを無理矢理見せられてるような作品ですがちっとも厭じゃありません。いや寧ろ楽しいです。
舞台となったおうちはどこなんでしょう。ロンドンの刑務所までとても遠いようで、朝4時に起きてバスや電車を乗り継がないと行けないような地域です。家の裏手から森に入れて、わりと遠くないところに海があります。
ときどきこの界隈のとても美しい景色が挿入され、マイケル・ナイマンの、どちらかというと童謡のような単純な旋律の音楽が流れます。
そもそも刑務所に入ってるような男の家族の話で、奥さんも時々イラついたりしますし煙草も吸いますし、セックスに関する描写もあります。ただの子供たちのほんわか良い子ちゃん映画ってだけじゃなく、ありがちな厭らしさや強制的道徳感みたいなのを完全に払拭してまして、そこんところがまた良いところです。