オフィシャルなデビュー作は「運命じゃない人」となっていて、いきなりカンヌ出品を果たし複数受賞の快挙を成し遂げた内田けんじ監督ですが、その前にぴあフィルムフェスティバルに出品していた自主映画がありましてそれが「WEEKEND BLUES ウィークエンド・ブルース」なんですって。
ビデオ作品です。俳優たちはみな友人たちだそうで、ロケ地も友達の家、監督本人も出演しています。完全手作りです。
自主制作のビデオ作品でプロの俳優も出ていないからとあなどるなかれ、これはね、めちゃくちゃ面白いです。
全体のストーリーと細部の面白さと人物の魅力が完全一体となった脚本は見事のひとこと。後に「運命じゃない人」へと昇華させたネタをいろいろ感じとることができますが、単なる習作とは違って、こちらはこちらで存分に面白い独立した作品と見て問題ありません。
主人公キャラクターがたいへん良いです。とぼけていてお人好しで彼女に振られて絶望しています。後に「運命じゃない人」を作るとき、この主人公キャラの特徴をちゃんと踏襲したことは重要ですね。ストーリーの展開と緻密なプロットを満喫するタイプの映画ですが、パズル的な物語の中で人物がただコマのように動くというわけではありません。人間の魅力と面白さを表現する細部があるからこそストーリーも映えます。
ということで主人公のとぼけた面白い人を演じている中桐孝さんという方ですが、「WEEKEND BLUES」の面白さの大部分がこの方の個性で出来ています。「運命じゃない人」の中村靖日氏に匹敵する魅力です。聞くところによりますと、内田けんじ監督の脚本も中桐孝本人のキャラクターありきで作られた節があるそうですね。この方は後に俳優になったわけでもなく、真っ当な社会人として暮らしておられるそうです。
わずかな部分に自主製作ならではの稚拙なところもなくはないですが、そんなことはまったく気になりません。そこいらのメジャー作品など足下にも及ばない完成度です。これはあれですね、天才です。