何がジェーンに起ったか

What Ever Happened to Baby Jane?
かつて子役時代と成人時代で人気が逆転した華やかな世界のジェーンとブランチの姉妹。その後は年を取り隠居して人知れず豪邸に住んでいます。名作の呼び声と共に、あぶり出されるのは全開の楳図っぽさ。
何がジェーンに起ったか

気になっていた名作映画を時々掘り返して観たりします。「何がジェーンに起ったか」はなぜか「こ」がない特徴的な邦題で、その内容はもはや伝説のレベル。

二大女優奇跡の共演でしかも醜い姿をさらけ出すというとんでもない映画。

この映画がなぜ観たかったかというと楳図かずお先生の大ファンだからです。

子役の頃人気だった妹ジェーンとそれを妬む姉、大人になり人気映画女優となった姉ブランチと落ちぶれた妹。そしてさらに時が流れ、二人は年を取り豪邸でひっそりと暮らしているという、まさに楳図っぽさ全開の設定に強く興味を惹かれていました。

で、はじめて観たんですが、驚いたのなんのって、想像以上の楳図っぽさでした。

すべての設定、すべての舞台や小道具、すべての表情、すべての台詞回し、すべての人物の特徴、すべての構図や動き、もうあれです、どこをどう切り取っても楳図漫画にしか見えません。

これは楳図先生が映画の影響を受けたとか、そういう単純なレベルではなく、楳図漫画の血となり肉となったと思うしかありません。血と肉を与えた映画の一つが「何がジェーンに起ったか」であり、この映画から得た血と肉が楳図漫画をさらに高次元に引き上げたと、そんなふうに思うのであります。

表面的に「おろち」の中の一篇が直接影響を受けたと言われていますが、そんなレベルではありません。
移ろいでいく人気と美貌と嫉妬の物語は楳図作品に何度も登場するテーマです。若さと老いというテーマも内包します。
醜くなってしまったかつての美少女が子役の頃のままの服を着て軽やかに歌い踊る不気味な姿もあります。
厚化粧をして目を見開く様、あるいは苦しみ抜いてやつれていく様、陰湿な苛めと虐待、優美なる立ち居振る舞いからラスト近くに見せる醜き者の美しさも、まさに楳図作品で見てきたものの総括。
洋館の豪邸やその室内の調度品、電話機の置き方、扉やベッドまで、その舞台もそうだし、ストーリーの運びにも感じます。

と、楳図っぽい楳図っぽいばかり言っていると映画ファンに「こら。おんどれ名作映画を前に何ふざけたこと言うてこましとんねん」と叱られそうですが思ったものはしかたがない。

もちろん楳図抜きにしても映画として素晴らしい出来映えなのは間違いないところです。今更あれこれ言っても仕方ないですが、例えば途中出てくるピアニスト親子の絡みは本当に面白いです。脇のこの壮絶個性っぷりは何事かと、のたうち回って喜びました。それから当然あのラストですよ。何という凄まじく美しいラストシークエンス。鳥肌ぼーっ。凄いです。
二大女優の演技についてはこれはもう伝説レベルで、ベティ・デイヴィスの派手派手しい演技の他にも、非情に細かな部分での動きの美しさなんかも堪能できると思います。

また懲りずに楳図漫画の話ですが、楳図作品の動きの表現やストーリーの省略と引き延ばしのバランス、人の動き、動的な状況を示すコマ割りなど特徴は「何がジェーンに起ったか?」にすべて見て取れますが、それがすべてではなく50〜60年代の映画の特徴でもあると思われます。
昔の映画って、サスペンスや心理的恐怖の中にそこはかとなく漂う気品とユーモアを感じ取れますものねえ。

映画っぽい漫画という発明をしたのは手塚治虫で、手塚漫画っぽい映画ってのはもちろん昔も今もあるわけですが、その流れに楳図作品もありまして、また別の映画っぽさです。今の漫画は知りませんが、今の漫画もやはり今の映画っぽさを取り入れたものもきっとあるのだろうと思います。そういえば少女漫画っぽい映画というものもありますね。
今時では漫画の他にゲームというものもあるのでしょうか。映画が総合芸術と娯楽で圧倒的な強さを誇っていた頃と違い、漫画やゲームの影響下にある映画というものもありそうです。

漫画の話ばかりしてマジこの映画のファンに刺されそうですが、「何がジェーンに起ったか」は本気で面白いし見応えもたっぷり、映画に大きな力があった頃の迫力をずびずば感じとれるやっぱり名作映画でございまして、改めて言うことがないのでありますよ。

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