曲者です。この映画は曲者です。やばいです。完全に舐めておりました。だって冒頭とか、何だか適当なんだもん。「あほやなあこの男」とか、そんなレベルですもん。邦題も投げやりなタイトルだし、まさか大当たりの猛烈映画なんて思いもしてませんから。
でも違った。これは強烈。これは凄い。これはおもろい。こんなの知らなかった。
先に答えを書いておくと、監督・脚本のジェームズ・ワトキンスです。最高の仕事しました。
この方は「ディセント2」で脚本を書いておられます。「ディセント2」面白かったですよねー。人によっちゃ「ディセント」より好き、とか言います。あの脚本はとてもいいです。
で、「ウーマン・イン・ブラック」では監督しています。あれも悪くないけど、まあ、絶賛するような映画でもありません。脚本は担当していません。
それから「処刑・ドット・コム」で脚本を書いています(まだ感想は書いてませんけど)
ジェームズ・ワトキンスは脚本がすばらしい人です。これが答えです。
「バイオレンス・レイク」は凄い映画でしたが、演出よりも脚本、それに役者の演技が光っているように思います。もちろんそれも演出の仕事なので監督としても優れているのは確かですが。
ごちゃごちゃ言ってないで内容ですが、カップルが湖で少年たちにやられます。
で、何がすごいのかというと、田舎の少年たちの恐ろしさと、それから彼らの個性です。そしてカップルの彼女のほう、彼女の壮絶体当たり演技のあたりですね。これらが見どころとなります。
単なる糞ガキ犯罪と切り捨てられない少年たちの描き方です。これがすごいんです。細かい部分でとてもきっちり脚本が作られていることがわかります。
最近気づいたんですが、「細かいところにめちゃこだわった設定が入り込んでいたり演出されていたり演技したりする」という映画を絶賛する癖があります。
「バイオレンス・レイク」もまさに細かいところがとてもよく練られています。
少年たちの個性や関係性や動きや態度です。
大雑把なところもあります。例えばカップルの男のほうなんかはわりと大雑把です。でもそれはわざとです。
彼を大雑把に描くことは、観客への優しさです。なぜかというと、痛い目に遭うからです。
ホラーやバイオレンス映画っていうのは、ただ強烈でありさえすれば良いというものではなくて、適度な押さえが必要です。人体がばらばらになったりする超絶スプラッターでは登場人物にあまり感情移入させないように作りますし、感情移入させまくるようなタイプの映画の場合はショックシーンそのものに力を入れません。これは作家の良心というよりも、作品の品位というか、バランスの感覚だろうと思っています。
そういう意味においては「屋敷女」と「ファニーゲーム」が両極に位置する、それぞれほんのちょっと踏み越えた作品だと考えています。
話を戻して「バイオレンス・レイク」ですけど、序盤は油断させられます。
この手のホラーやバイオレンスでよくある「馬鹿な若者たちが人気のない場所に出向く設定」ってのをカップルだけでやります。
男のほうが特に馬鹿で、観ていても「変な奴相手にすんな」「彼女つれてさっさと家に帰れ」「勝手に人の家に入るな」「カッコつけてる場合か、早よ逃げろって」と、突っ込みを誘導させられます。あほみたいな男に半笑いで突っ込みを入れるような見方ですから、映画自体も「あほみたいな映画に違いない」と舐めてかかることになります。
ところがどっこい、だんだん様子が変わってきますよ。凄まじいことになってきます。
少年たちをきっちり描いていることがよい効果を生んでいる大きな理由です。これに尽きます。
カップルの彼女も頑張りました。
この女性、誰かと思えば、「スパニッシュ・アパートメント」と「ロシアン・ドールズ」のウェンディじゃありませんか。ウェンディ姉ちゃん、あんたこんなところで何という恐ろしい目に遭われてるんですか。
どろどろになりながら体を張った壮絶な役割を、ウェンディことケリー・ライリーはやり遂げました。
カップルの馬鹿男を演じたのはマイケル・ファスベンダーですね。馬鹿アホ言うてて失礼ですが、映画の中で、どんどん良くなってきます。
ありがちな序盤にくらべて、この手の映画でも珍しいタイプの役回りを演じることになってきます。
そして何度も言いますが少年たちがすごいのです。彼らに与えられた個性とその振る舞いは見事としか言えません。
これに関しては詳しく言いません。あまり言うとこれから観る人に失礼ですから。
脚本的にも、演じた少年たちの個性も素晴らしい。見事。ほんとに。
てな感じで、舐めて観てたら途中からどえらいことになってしまう壮絶な作品ということだけ言っておきます。
「スペイン一家監禁事件」にも匹敵する強烈な一本。良いの観た!すっごいの観た!