途中で見るのを辞めたくなるほど怖くて気分が悪い。苦しくて辛くて最悪です。
ここまで暴力を突きつけられたことがあろうか。これは映画を観ると言うより体験させられたと言ったほうがよい。
鑑賞者は目の前で繰り広げられる暴力をただ見ていることしか出来ず、それどころか、技法的に共犯者の立場に立たされてしまう。これまで色んな映画で暴力を楽しんできた我々は虚構内に取り込まれて暴力の海に沈められてしまうという何とも恐ろしい構成であります。
虚構から現実に向けて、これはただの虚構だと語りかけながらも、虚構からの脱出を困難にさせるほどのリアリティ。このリアリティは何事でしょう。なんと虚構としてのリアリティなのですよ。虚構であると暴きながら虚構から脱出できない恐怖を浴びせ続けます。
同時に、現実世界の暴力事件を虚構とオーバーラップさせることによって、その虚構のような現実の恐ろしさも鑑賞者の心に焼き付けます。つまり現実の暴力犯罪に対して感じる虚構臭さを、現実味のあるものに持っていくんですね。持って行かされるというか。普段何気なく触れて気にもしていない暴力事件を、生々しく観客に追体験させるというわけです。
さらにまた同時に、映画的にはご都合主義の批判的パロディを含む意図も散見することが出来ます。実際に観ている途中で「この映画はハリウッド製ではないのだ。だから・・」と思ったりします。楽しいハリウッド映画なら最後は奮起して戦って勝って良かった良かったとなるのですがこの映画はそうじゃないぞとすでに宣言されていますから、安心して見ることが出来なくなっています。虚構であることを宣言して虚構から脱しきれない追い込みをかけた効果が出ます。「ご都合主義は通用しないのだ」と意識した瞬間、パロディ的な笑いよりも油断ならない恐怖を感じます。
この異常なほどのリアリティを伴った作品を完璧に仕上げることが出来たのは単にアイデアだけでなく、卓越した役者の演技力、演出力、構成力、カメラワーク、つまりすべての総合的な力です。メタ部分やパロディを含む映画なのに、その映画的技術はあまりにも一級品。すべてのシーンに力を与えています。
印象的な音楽はジョン・ゾーンさんの仕事、ボーカルの特徴的な声は昔いっしょに演ってた聞き覚えがある彼のあの声、ありゃー。
何とも羨ましい、こんな歴史に残る大傑作映画に参加してたのかー。すげーっ。
とにかくハネケさん、恐るべき仕事を成し遂げたものです。
恥ずかしながら、ミヒャエル・ハネケの作品はそのほとんどが未見。しかし初心者なのにどえらい作品を観てしまった。次は「ピアニスト」観る。またとことん厭な気持ちにさせられそうで、想像するだけでわくわくにやにやと・・・
第50回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式作品
第33回シカゴ国際映画祭最優秀監督賞受賞
2006.08.04
無知ゆえ遅咲きのハネケファンですがこの後、積極的に見まくりました。ただし急に詰め込むと体調を崩しそうなのと、もったいなすぎるので折を見てぼちぼちと。
追記。ファニー・ゲーム U.S.A
「ファニーゲーム U.S.A.」を見に行きましたがほとんどオリジナルと変わらずです。でもちょっと長回しが省略されてませんでしたか?
あと、製作にも加わったというナオミ・ワッツ、尊敬もしてるしファンなんですが、奥さん役としては元気良すぎて、あるいはアメリカ映画的イメージが強すぎて、ちょっと残念だったかな。いかにも反撃しそうなイメージがついて回りますもんね。よれよれであたふたしてる悲惨きわまりないオリジナルの奥さん役を上回ることは難しすぎたようで。
それと犯人、USA版の犯人二人を演じるのが、マイケル・ピットとブラディ・コーベットのお二人。ですがちょっと無個性で見分けが付きにくかったです。移民顔とでぶっちょのオリジナル版がやはり良いす。
どうしてもアメリカ人に「ファニーゲーム」を観てもらおうと皆がんばった。アメリカ人こそこの映画を観なければ。しかし結果は、やはりアメリカ人の多くに観てもらうことは難しかったようです。
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