世界の子供たちを救うためのオムニバス企画です。
イタリアの女優マリア・グラッツィア・クチノッタ、キアラ・ティレシ、監督のステファノ・ヴィネルッソが立ち上げたそうです。企画実現のために、イタリア外務省や国連機関、ユニセフやWFP国連世界食糧計画の協力も取り付けたという発起人たちの熱意です。
7ヶ国の監督がそれぞれ子供たちのドラマを描きました。
タンザ
出演:ビラ・アダマ, ハノウラ・カボレ
少年兵たちの動きを追います。少年が武器を携えて練り歩き、兵士を撃ち、村を襲う計画を立てます。
同じテーマの映画に「ジョニー・マッド・ドッグ」があります。相当強烈な「ジョニー・マッド・ドッグ」と比較して、主人公少年の情を表現したりして、こちらのほうが甘口の仕上げとなっています。尺の短さが気になるし、短いと言いながら間延びも感じますので出来映えとしてはまあその、あれなんですけど、少年が武器を構えているというだけで十分衝撃的なので、こういう仕上げにするのが無難だったのでしょう。
ブルー・ジプシー
脚本:ストリボール・クストリッツァ
出演:ウロシュ・ミロヴァノヴィッチ
出た。エミール・クストリッツァです。待ってました。後に「ウェディング・ベルを鳴らせ」でも主役を張る少年ウロシュ・ミロヴァノヴィッチがめちゃいい味わいを出します。靴屋の相棒役のあの背の低いお兄ちゃんも出てます。
ノー・スモーキング・オーケストラの音楽が鳴り響き、自由と、もう一つの側面から見た自由を描きます。なんせ騒がしくていい感じです。これやっぱりおもろいです。実はこれが目的で「それでも生きる子供たちへ」を観ました。
さくっとオチも気が利いていて、とてもいいです。というか、好きです。
アメリカのイエスの子ら
脚本:サンキ・リー, ジョイ・リー
出演:ロージー・ペレス, ハンナ・ホドソン, アンドレ・ロヨ
親からHIV感染した少女です。これは素晴らしい出来。とてもいいです。父親がイラク戦争帰りという点も実に正しくアメリカの惨状を描いています。
オムニバス映画は尺が短いので、この短さをどう処理するかという映画技術的な側面にも注目します。
この「それでも生きる子供たちへ」の7つの短編のうち、本作が抜きん出て「尺にぴったり」な短編映画として仕上げています。内容の良さと相まって、見事な一作となったと思います。
母ちゃん役のロージー・ペレスにご注目。「ナイト・オン・ザ・プラネット」に出てた人ですねー。
ビルーとジョアン
出演:フランシスコ・アナウェイク・デ・フレルタス, ベラ・フェルナンデス
これも面白いです。都会の下町でしたたかに生きる兄と妹です。空き缶やいろんなものを拾い集めて売ります。途中、板切れと釘でゲーム版を作ったりするシーンもぐっときます。すぐそばにある普通の都市を尻目に、この子供たちはゴミを拾って食い扶持に変える逞しさを持っており、生きる力を感じさせます。これ凄く面白くて、「尺が足りないよー」「もっとやってー」「これで一本作っておくれよ」と、わりとのたうち回りました。
カティア・ルンドは「シティ・オブ・ゴッド」の共同監督ですって。凄腕です。
ジョナサン
脚本:ジョーダン・スコット
出演:デヴィッド・シューリス, ケリー・マクドナルド, ジョナサン・ジョーダン・クラーク, ジャック・トンプソン, ジョシュア・ライト
最初は弟さんとの共作かと思ってたのですがジョーダン・スコットさんはリドリー・スコット監督の娘さんのようです。
森のシーンがとても綺麗でほれぼれします。しかしそれ以外は大したものじゃありません。ネタも何だかなーな感じだし、迷い込む戦場の他の子供たちに説得力というかリアリティというか、そういうのないし、なんかちょっと浮ついた印象を持ちました。すいません。
チロ
脚本:ステファノ・ヴィネルッソ, ディエゴ・シルヴァ
出演:ダニエリ・ヴィコリト, エマヌエーレ・ヴィコリト, マリア・グラツィア・クチノッタ
これまたすばらしい。スタイリッシュな映像と音楽、スピード感と少年の目のぎらつき。監督のステファノ・ヴィネルッソは本オムニバスの発起人のひとりですか。というかこの監督の他の作品ないのかとちょっと焦ります。カッコいいです。とてもいいです。めちゃ好みです。
他の作品ないのかと探ってみたら、これがないのですね。日本に紹介されてないだけかと思ったら、もともとあまり撮っていない方のようです。もっと撮ってください。かっこいいぞ。
桑桑(ソンソン)と小猫(シャオマオ)
脚本:リー・チャン
出演:ザオ・ツークン, チー・ルーイー, ジャン・ウェンリー, ユウ・ヨン
多才なジョン・ウーが手がけたこのお話は可哀想な可哀想な小さな少女です。もうね、絵に描いたようなありきたりでベタな可哀想物語。おもくそベタで陳腐でありますが、それでも泣けます。笑っちゃうほど泣けます。「お花買ってください」とか、もうやめてーっ。
というわけで、7つのお話でした。
目を見張る出来映えの「アメリカのイエスの子ら」と「チロ」と「ビルーとジョアン」、それに加えて個人的大好物であるからして「ブルー・ジプシー」が楽しめました。
正直なところ「子供たちを救うために窮地の子供たちを描く」というお題目には首を傾げる部分もなくはないのです。が、文句があるわけでもなく、これはこれでよいのではないでしょうか。