バスタブ島は海と森と湿地帯に恵まれた島で、ほど近くの巨大な堤防で内陸の文明世界と隔絶されています。冒頭、筏に乗って堤防と遠くに見える工場地帯を見ながら「汚ねえ景色だな」と会話。この島に父親と暮らすちびっ子ハッシュパピーの語りと物語です。
バスタブ島は自然や食べ物に恵まれて遊んで暮らしているかのようなファンタジックな島ですが、ベースにあるのは貧困です。資本主義のふるいに掛けられた忘れ去られた村でして、ここに暮らすピュアで賢い少女の設定は日本の漫画で言えば「ぼくんち」や「じゃりん子チエ」を思い出させる(個人的に)下町風情を伴っています。
この木訥系貧困社会派なる設定とファンタジー要素の完全融合です。ファンタジー秘境と少女の空想とリアル貧困のドラマが一体となって混ざり合っているというのが「ハッシュパピー」の魅力ではないでしょうか。
ちびっ子ハッシュパピーの世界において貧困生活とファンタジーには質的違いがありません。そのようなベースでこの映画は出来ています。その試みの面白さは十分に伝えられていると思います。完成度高くて、多くの人の心を掴み、賞レースにいきなり参入して皆の度肝を抜いたそうです。
細かく揚げ足を取ったり、やや稚拙な点を指摘するなどという野暮をやるタイプの映画とは思えません。歴史に残るかどうかも知りません。年月と共に印象は薄くなってくるとは言え、観た直後は「おもろかったなー、おもろかったなー、よう作ったなー」と大いにはしゃぎました。ファンタジーで貧困、楽しくノリノリ、辛くてもノリノリ、ちびっ子頑張ってるし父親大袈裟だし、小気味もよいです。押しつけがましさもありません。根底に何か深みがありそうな感じもちゃんと残していて、決して軽々しいということもないという、つまり良い出来の映画だと思うんです。
妙にませた賢いちびっ子の独白が全編を貫きます。ちびっ子目線では貧困も災害も空想も社会も家族も動物も並列に並びまして、それらの重要度に優劣がありません。この描き方はあれです、いわゆるマジックリアリズム系の童話の特徴を持っています。もっと文学的に仕上げても良いようなテーマですが、そこにヒップホップ調のパパを持ってきたり、リップ・バン・ウィンクル的なるアメリカ童話の軽快さを持ってきたりと個性的かつ普遍的な味付けを施し、単に「ラテン文学っぽいな」と訳知り顔のマニアにカテゴライズされることを拒んでいるかのようなバランスとなりまして、そのあたりが嫌味のなさであり、多くの人を喜ばせた理由だろうとちょっと思います。
へえ。こんな予告編でしたか。ちょっと狙いすぎててあざとい感じも受けますが興味を引く良い広告かもしれません。ちょっとネタバレ気味なところが気になりますけど。
第28回サンダンス国際映画祭 グランプリ/最優秀撮影賞 受賞
第65回カンヌ国際映画祭 カメラドール/国際批評家連盟賞/若者の視点賞/エキュメニカル審査委員賞 受賞