ゾンビネタのコメディ映画ですが、キューバの映画ってところがポイントです。キューバ初のゾンビ映画とのことで、初だか何だか知りませんがとにかくこれ、滅茶苦茶おもろいです。
そもそもキューバの映画自体にあまり馴染みがなく、でもとても興味のある国なのでゾンビ映画でなくてもちょっと話題になれば観てみたくなるのが人の道。で、このゾンビ映画、想像したとおりキューバであるということを全面に打ち出したアクションコメディで、その上で登場人物の魅力やストーリー進行、演出から音楽まで、ラテンの血が全開です。これはもう大好きすぎてたまりません。
こんな映画をいつ上映してたんですか。ぜんぜん知りませんでした。なぬ。京都はみなみ会館でやってたんですか。ぜんぜん知りませんでした。教えてくれたらよかったのにー。
はい、というわけで主人公は40歳くらいの自由人フアンです。激動のキューバ史を駆け抜けた強者です。セックスも5回くらい楽勝で行けます。そしてその親友小太りラサロです。時々陰茎がはみ出ます。そしてラサロの息子その名もブラディ・カリフォルニアはマリファナ吸いすぎて幸せいっぱいです。そしてフアンの娘でちょー可愛子ちゃんカミーラです。キューバの可愛子ちゃんはスペインの可愛子ちゃんに近いアイドル路線で日本人にもきっと受けがいいでしょう。
それからオカマのチナと血が怖いマッチョのプリモです。これがゾンビ・バスターズの面々です。
正義の味方のゾンビハンターではなく、混乱のキューバでゾンビ退治を請け負う仕事を始めるのです。「はたらくおじさん」ゾンビ退治編です。
冒頭、フアンとラサロが海にぷかぷか浮いているシーンからです。
この冒頭が滅茶苦茶よくてですね、優れた映画は冒頭でわかります。心でガッツポーズ、一気に前のめりとなりました。
この冒頭のシーンはiTSの予告編でご覧になれますよ。普通の予告編もいいですが、冒頭のみっていうのがいいです。しかしラインナップの貧弱さでお馴染みのiTS映画コーナーですが、この映画はあるのですよね。ぜんぜんないくせに変なのが時々あります。
ゾンビ映画ですが「ゾンビ」という言葉はほとんど出てきません。いわゆるゾンビ系映画にありがちな「ゾンビはゾンビ、すでに認知されているネタである」という前提を取らないのですね。感染してゾンビ化した者どもは、名もなきモンスターではなく、家族がいてちゃんと生きてきた人です。ここがまず大いに気に入った点です。
主人公たちも含めて、キューバでは「ゾンビ」という存在はありません。吸血鬼か悪霊かそれに類するものであると主人公たちは認識しています。
キューバ政府は「米帝の支援を受けた反体制派」と認識しています。
「ゾンビ」という言葉を映画中で発する唯一のシーンがあります。この言葉を発するのが誰なのか、本編にてお楽しみください。
キューバという国は一応北米に分類されるようですがカリブ海の島国で共和制国家です。広場にはチェ・ゲバラの壁画があるビルがそびえます。
15世紀頃、スペイン人が襲いかかり植民地化と虐殺の果てに貿易盛んな中継地点として発展しました。19世紀末ごろに独立戦争が勃発し介入して勝者となったアメリカ軍政が敷かれまして、スペインから独立を勝ち取ったかのようでアメリカに支配されただけというそのころのキューバは日本とそっくりで、米軍基地が置かれたり米企業に経済乗っ取られたり内政に干渉されまくりという、そういう状態だったようです。
日本はこうした状況を喜びますがキューバ人は喜ばず、不満が溜まり、幾度となく反乱やクーデターや政変でごたごたとしていたようです。
1950年代のキューバ革命に続くフィデル・カストロやチェ・ゲバラなどの台頭があったりして、そのあたりのことは詳しくないのですがとにかくアメリカ排除に動きまして、ケネディの頃のキューバ危機や、それから70年代のラテンアメリカのごたごたに続いていきます。ラテンアメリカにとどまらず、アフリカの激動とも当然繋がっていて、映画の中でフアンが語るアンゴラ内戦への介入のように積極的に軍隊を派遣したりしていました。
90年代に社会主義国となってからも、アメリカとのごたごたは後を絶たず、段階的に経済制裁は解除されたりしつつも、打倒すべき独裁政権の一つに挙げられたりしてたいへんです。
2011年に部分的に市場経済が導入され、「ゾンビ革命」が世界に羽ばたいたのもこの件と無関係ではないでしょう。
はて。なんでキューバ史のおさらいをしてしまったんだろう。
というわけでフアンは激動のキューバ史を生き延びた歴戦の強者で、キューバのいいところも悪いところも皆知っていて、そしてたまらなく愛国心を持っています。
愛国心というと日本では愛政府与党のことを指しますがフアンの愛国心は郷土愛を根に持つ本当の愛国心です。本当のとか言うと語弊もありますが、まあなんせ愛しているのは政府ではなくて国そのものです。政府などというものは端から頭にありません。
「ゾンビ革命」の面白さの基本は登場人物たちの気質です。主人公たちはもちろん、端役の皆さんも皆とてもいい感じです。海に囲まれた南国の島国。誰も政府を相手にせず、資本主義社会では一瞬も生きられないようなクズが楽しそうに暮らしています。
不安定で国外脱出する人が後を絶たないキューバですが、この映画を観ているとキューバに住みたくなります。なりませんか?私はなります。クズですから。
自国の恥部もギャグとしてさらけ出しながら、同時にアメリカかぶれの批判的パロディを含めながら、同時にアメリカ映画の懐深さや娯楽産業にも敬意を表しながら、同時にキューバへの限りない愛国心も垣間見せながら、この映画は進行します。観ている間中、共感や笑いの共有や心のガッツポーズが連発します。こんなに魂にフィットするとは何事でしょう。いい出来映えの映画には違いありませんが、多分出来映え以上にこの映画好きです。
あぁ、音楽の力もありますね。音楽もいいです。最後はピストルズの「マイウェイ」が流れます。なんじゃそりゃーってなります。でもシドの歌う「マイ・ウェイ」は映画を見終わっても頭の中からなかなか追い出すことは出来ません。
音楽は他に冒頭からしばらく流れる「Bacalao Con Pan」が印象的です。「Bacalao Con Pan」はどなたのバージョンですか。
この曲っぽいですね。
Bacalao con Pan – Grandes Momentos de Chucho Valdés & Irakere
劇中に他の曲も流れます。どれもいい曲です。
[追記]上記、iTunesから削除されたようです。
監督や役者さんはさすがに知らない人ばかりです。
スペイン映画を観ていても思うんですが、女優が可愛い系の美女です。世界の美女です。それにくらべて、男は個性的です。世界の男前というのがほとんど見当たりません。あ、インドの映画もそうですね。インドの男前も、いわゆる一般的なイケメンなどではありません。でも美女はすんごい美女です。つまり世界において、美女は普遍的で美男はご当地によってそれぞれ、と。面白い現象だなと思います。
というわけでこの映画の美女はフアンの娘カミーラを演じたアンドレア・ドゥーロですね。キューバ美女ですね。と思ったらスペイン女優でした。
ゾンビ映画はその発端からして狂気の群衆に襲われる人間を描くという若干の社会性を帯びています。「ゾンビ革命」は「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」の極めて正統的な後継と断言してもいいのです。社会主義国であり米帝に対抗する島国としてゾンビネタはほんとにぴったりきます。
そしてアジアの島国、日本でもゾンビの感染爆発が現在起きています。もとは誰かの家族であり友人であった幾多の人々がゾンビと化し、現実を無視して暴れています。「ゾンビ革命」ではゾンビを反政府運動であると出鱈目の発表を行いましたが、日本の場合ゾンビは政府直轄の従順な生ける屍の群れです。
とか何とかまた話が横にすっ飛びそうになるので今日はこのへんで。
「ゾンビ革命」かなり相当好き。