「レプリカ」は一家を襲う不条理な犯罪の映画です。
誰かが「ファニーゲーム」の名を出すもんだから期待してしまいました。期待しすぎは事故の元、この映画も見終わってすぐ「あーあ」の残念系でした。
「ファニーゲーム」とそっくりなシチュエーションです。
まず夫婦と子供ひとりの3人家族はプチブルです。遠く離れた別荘に来ておりまして、ここで理不尽な目に遭います。
犯人キャラクターは、きっかけとしてはとても似ています。「卵ください」のあのイライラする不気味さを序盤に堪能できます。
それから技法としては比較的リアリズム系の描写です。
誰が言ったか知らないが、だからといって「ファニーゲーム」の名を出すのは不埒すぎます。
表面的には似ていますが根本的にまったく似ていません。寧ろ真逆です。言葉は悪いが、表面だけパクったかのような案配です。
きっかけは似ていても、後半の展開たるや「ファニーゲーム」が最大限に批判した内容そのままになってしまいます。
つまり虚構のお約束が約束通り出てきて、暴力に暴力で応え、的確にストーリーが収束し、客はよかったよかったと言い、家族の愛を確認するという、ハリウッドも呆れるお楽しみ展開となります。
まさにこういう映画、こういう表現、こういうのを作る連中や見て楽しむ観客を批判し、真の暴力を虚構の側から突きつけた「ファニーゲーム」の意図を蔑むような後半の展開にお口あんぐりよく焼けたハマグリ状態、最後はなんだこりゃと呆れてしまいます。
と、ぼろくそ言っていても始まらないので、そもそも「ファニーゲーム」の名を出して宣伝したその宣伝担当が情けないのであって、作った人達のせいではありません。つい宣伝に惑わされて貶してしまいすいません。
で、ですね。ハネケから離れましょう。これは普通のサスペンス、どきどきスリラーです。そう思うとわりと面白いです。
前半は特にめちゃ面白いんですよこれが。犯人たち、というか怪しいご近所の連中との楽しいお食事シーンです。これは最高です。イライラしてそわそわして胸騒ぎして、もうたまんない状況です。とてもよろしいです。
隣人の変な男を演じたのはどこかで見覚えがある顔です。誰だっけ誰だっけ、そうだ「dot the i ドット・ジ・アイ」のジェームズ・ダーシーじゃありませんか。いやあ。渋いキャスティングです。
それからその奥さん役がレイチェル・マイナーで、この女性も見覚えがあります。えーとえーと。「ブラック・ダリア」に出てましたか。個性的。
後半のお馬鹿展開がなければ、相当に面白い部類の映画のはずでした。
監督の演出も後半以外はずば抜けておりますし、力はあります。
何か大人の都合で後半あんな展開になってしまったのか、最初から制作陣の意図だったのか、それはわかりません。
ただ、脚本のジョシュ・クローズが主演もしていますし、原案とプロデュースはジャレミー・パワー・レジンバル監督と併記されてますし、会社や大人の都合で変になったとも思いにくいので、ちょっと不信感もあります。
とにかく前半は無茶苦茶怖くて面白くてよくできてます。後半はそこいらのファミリースリラーみたいになってしまいがっかりします。この極端さが実に不思議な映画でした。