「ウーマン・イン・ブラック」と聞いて誰もが普通「メン・イン・ブラック」の女版だと思うことでしょう。しかも主人公が元ハリー・ポッターですから、何やら大冒険が始まる予感・・・というのは大嘘で、きわめて真面目で由緒正しいゴシックホラーでした。
原作はスーザン・ヒルの小説「黒衣の女」で、そうかー、ウーマン・イン・ブラックってのは、黒い服着た女って意味だったんですね。英語って難しいな。ですので「黒衣の女」というタイトルを頭に浮かべれば、この真面目でじっとりするホラー映画のオーソドックス感が想像できるかもしれません。
はい。思いの外まじめな映画です。ちゃんとじわりじわりとやりますし、怖そうな気配こそが重要な演出ポイントとなっています。
この手の映画ってのはついうっかりお化けの出し過ぎや大活劇のクライマックスなんぞをやっちまって、怖さを放棄したオチになってしまうのが多いのですが、これはぎりぎりのところで押さえました。
日本の恐怖映画の影響もとても強く感じ取れます。そもそもストーリーそのものがまるで日本製のホラーみたいな、成仏しきれない辛さみたいな、恨むとか、子供とか、そういうネタで満ちています。
お化け的なシーン、ぎりぎりのところで押さえ込んだと思っているんですが、微妙に出しすぎの部分もなくはないです。人によっては「お化け出しすぎやろ、もう飽きたわ」と厳しく見る人もいるかもしれませんね。私はぎりぎり押さえ込んだと評価しています。いや、ちょっとやり過ぎたところもあったかな。ちょっとあったけど、まあ、どっちでもいいですね。
びっくりさせるだけでもなく、暴力的でもなく、古い屋敷と幽霊の地味な怖さを演出しようとするその心意気は買います。見てるときは実際怖いなーと思ったところもたくさんあったし。ただ完璧に上手くいってるわけでもなく、残念な部分もあります。
この映画、ホラー映画につきもののある人たちのいろんな事情っていうのが出てきます。「実は過去に・・・」っていうアレですね。そのネタ自体は悪くないです。オーソドックスならではのドラマの良さがあります。
で、そういうせっかくの良いドラマを、わりと簡単な説明だけで済ましてしまう演出がちょっと気になりました。
お化け屋敷の探検シーンはあんなにたくさんいらないから、その分このお屋敷に関する忌まわしい出来事をきっちりそれとなくじんわりやんわり描いてほしかったなー、と、ちょっとだけ思いましたが思っただけです。些細なことです。
それより些細じゃない問題点があります。監督ジェームズくんと脚本ジェーンちゃんはちょっとそこ座りなさい。
いいですか、このお話、主人公の元ハリー兄ちゃんの職業的な事情からスタートします。そして仕事として屋敷に出向きます。仕事量が多くて徹夜も辞さない覚悟です。冒頭はきちんと人物の職業的味付けができているのに、肝心の仕事シーンがいい加減すぎます。
この物語のキモは、主人公が屋敷にこもって仕事をしなければならないという点なのですよ。仕事シーンをきっちり描きつつホラーに持っていくことこそが重要だったはずです。
「徹夜します」なんていいながらやってることはお化け見学ばかりでは何の説得力ありません。
「女優霊」の映画監督もちゃんと映画撮ってたし、ノスフェラトゥの元に出向くジョナサンもちゃんとバンパイア相手に不動産売買の交渉をやるのです。
ハリーポッターのお兄ちゃんはこの屋敷に仕事をしに来て忙しすぎて帰れないのだから、ちゃんと仕事をしている、あるいはしなければならないという状況を押さえておかねばなりません。そうでないと説得力ないし、仕事ごっこをしてる子供みたいに見えます。何でもかんでもリアリティが必要ではありませんが、必要な場合もあります。
わかりましたか。わかったらもう行ってよろしい。
ちょっと厳しく書きましたが、基本的には悪くないいやむしろちょっと良いくらいの出来映えでしたよ。良いからこそ些細な点が気になりました。
なんてったって今時珍しい怨念や幽霊のお話ですから、この映画の基本的な部分は好きですし、こういう真面目なホラー映画は必要です。
さて、さきほど立ち去ったジェージェーコンビ、監督のジェームズ・ワトキンスは「処刑・ドット・コム 」や「ディセント2」の脚本家でありまして、片や脚本のジェーン・ゴールドマンは「X-MEN」や「キック・アス」の脚本書いてます。どっちかというと、ふたりとも派手系作品の人だったですね。面白い映画作ってきています。
がんばってじめじめ系の「ウーマン・イン・ブラック」を作ったこと自体は評価できます。がんばりました。チャレンジしました。
元ハリーポッターことダニエル・ラドクリフはもうすっかり大人で、いつまでもハリー・ポッター言うてては失礼です。ちょっと頼りなさそうないい演技していました。彼も俳優としてハリーの呪縛から解き放たれ、いい役者に育つためにがんばりました。
「ウーマン・イン・ブラック」は、些細な問題点もありますが、正統派のじめじめゴシックホラーとして価値があります。悪く書いたことは笑って許して、こういうの好きな人はぜひ楽しんでください。