エンド・オブ・ザ・ワールド 地球最後の日、恋に落ちる

Extraterrestre
マドリードの一室で目を覚ますフリオ。ここはどこ。見回すと美女フリアがキッチンに立っている。はて。この美女と一夜を過ごしたようだ。ぎこちなく自己紹介して名前の類似に照れ笑いのフリオとフリア。さてそんなふたりが窓から外を見上げると巨大宇宙船が。 ソリッド・シチュエーション・SF・コメディ。会話の妙技でしゃぶり尽くせる斬新でハイセンスな逸品。つまらない邦題のせいで呆れて立ち去るのはあまりにも惜しいのです。
エンド・オブ・ザ・ワールド 地球最後の日、恋に落ちる

何これメタクソおもろいやんか。ちょっと最高ですよ。
SFシチュエーションの中、4人の男女が嘘ついたり互いを疑ったりする映画です。面白い会話に満ちていて、そして人物の面白さに満ちています。すっとぼけた内容の映画です。これ大好き。最高。

「エンド・オブ・ザ・ワールド 地球最後の日、恋に落ちる」とカスのような邦題をつけられて「ツタヤ独占レンタル」とか気分の悪い立場のこの作品、元のタイトルは「Extraterrestre」で「エイリアン」って意味のようです。変な邦題つけずに「エイリアン」のままでええやんか。え?同じタイトルの映画がすでにある?でも「エンド・オブ・ザ・ワールド」のほうがよっぽどたくさん同じタイトルがありますよ。

というわけで「エイリアン」というタイトルにふさわしい本作、巨大宇宙船がやってきて街の人はすでにどこかへ逃げて無人の状況の中、美女と一晩過ごしたフリオをはじめ何人かが居残っていて、この中の誰かがすでにエイリアンかもしれない、という疑惑の物語です。

美女フリア、フリアに惚れている隣人、そしてフリアの彼氏です。基本、この4人のお話になります。他に、地元テレビ局を勝手に使用する男などもいて、ときどき海賊放送を流しています。

さて夕べ何があったか記憶にないフリオとフリアがもたもたしていると、まず隣人のストーカーもどきのオタク系小太りの男アンヘルがやってきます。
「オラ」
「オラ」
その後、フリアの彼氏カルロスがやってきます。
「オラ」
「あわわ」
あたふたするフリオとフリア。疑いの目を向けるアンヘル。何も疑っていないカルロス。
フリオとフリアは宇宙船そっちのけでこそこそと口裏を合わせたり嘘をついたり保身ためカルロスにアンヘルへの疑いを向けさせたりします。
そして嘘の流れの中で放つひょんな一言が事態を急変させます。「すでにエイリアンが侵入していて、この中の誰かがエイリアンかもしれない」

というわけでですね、些細な嘘からはじまるエイリアン疑惑についての会話の妙技がたっぷり堪能できる、スマートでウイットに富んだSF(と言っていいのか)コメディです。
ちょっとした短編小説のような優れた脚本にびっくり。

この映画、最初はどういう話になるのか全然読めませんが、途中あたりから「互いの秘密と嘘」がころころ転がるお話に思えてきます。
「ははあ、こういう手の展開か。これはおもろいな」とわくわくします。

でも単純に互いの嘘と疑惑だけの話というわけでもないのでして、彼氏カルロスや隣人アンヘルのキャラクターの面白さによるところもあって、予想外の物語に発展していきます。基本ラブコメと言っていいのかもしれませんが、なんというか、ストーリーの流れがとても変で、センスが良く、惚れ惚れする出来映えなんですよ。

脚本の見事さは、ストーリーの流れだけにとどまらず、細かい部分にも現れています。
例えば、街を移動するために壁一面に地図を貼り付けて計画を練るシーンがあります。よくあるシーンですね。でも普通の家に壁一面の地図があるわけないので、映画を観て「ツッコミどころ満載だな」とか言って批判するツッコミどころ満載野郎が何か言いたくなるようなシーンです。で、つっこまれるより先に「ガイドブックのページだね」と登場人物が説明します。
「ああ。見やすいからね」地図を見て計画を練ることそっちのけで、地図についての会話が続きます。
ここでまたツッコミどころ満載野郎が手ぐすね引くでしょう。でもその前に先につっこみます。「でも両面に印刷されてるんじゃないの?どうやった?」
「二冊くすねたのさ」
ちょっとしたメタなギャグですね。

バスルームからタオルを巻いたフリアが通り過ぎるシーンがありまして、後ろ姿でおしりが少し見えます。ちょっとしたお色気シーンでしょうか。映画ではよく見かけるサービスショットです。
次のシーンで、フリオとフリアが並んで座っていまして、フリオが語りかけます。「ねえ」
「なあに」
「さっきタオルを巻いていたとき、君の尻が見えたよ」

登場人物たちの魅力も半端じゃありません。
主人公もとぼけていていい感じだし、美女フリア(ミシェル・ジェネール)はほんとうに可愛らしいし、人を信じるカルロスなんかとてもとてもいいやつです。それに小太りアンヘルの味わい深さも格別です。このアンヘルを演じているのが「気狂いピエロの決闘」のカルロス・アレセスですよ。へー。アレックス・デ・ラ・イグレシア特集は前回で一旦終わったのに、関連する役者にこの場で出会えるとは思ってもいませんでした。

まあ、なんといいましょうか。人を食ったような変な展開は非常に小気味がよくてセンス抜群、練りに練られた脚本と登場人物たちの味わいは一級品、私はこれ大好きで褒めちぎります。素晴らしいです。
「クソ」とか「全然面白くない」とか言ってるやつもいるようですが一体何をどう見たら面白くないと思えるのかさっぱり理解できません。最高に面白いです。

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