アレックス・デ・ラ・イグレシアという監督をつい最近意識したばかりの新参者は私です。「気狂いピエロの決闘」のあまりの傑作ぶりに一気に惚れ込み、大変遅ればせながら追っかけてます。「オックスフォード連続殺人」に続いてさらに時を遡り「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」です。西部劇へのオマージュ、祖父と孫の交流、寂れたウエスタン村のおかしな人々を描きます。
いつものように超カッコいい西部劇のオープニングで始まる本作です。今年は早々に「殺しが静かにやってくる」を観たり、公開映画では「ジャンゴ 繋がれざる者」もあったし、個人的に不思議な西部劇の年になっております。
「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」は西部劇ではありませんで、西部劇全盛の頃栄えて今は衰退している西部劇ロケの「テキサス・ハリウッド」という映画村みたいなところが舞台です。
スタントマンをやっていたフリアンをはじめ、この寂れたハリウッド村には数少ない客相手にショーを行っている役者たちが生息しています。
ここに孫が尋ねてきて一悶着という、なんとなくノスタルジーを刺激したり老人と孫の心温まるハートウォーミング系優良ドラマを連想するテーマが散りばめられています。
が、物事はそう単純じゃありません。
ハートウォーミングと筒井康隆氏の初期小説のようなドタバタ劇なのでありますが、その狭間には、たいへんブラックな笑いや捻くれた脚本や設定が忍ばせられていて、そういう部分がとてつもない魅力を付加しておりますよ。
登場人物たちのタチの悪さがまずなんといっても特徴的です。優等生映画のような祖父と孫の物語ですが、出てくる連中のクズっぷりは一級品。品行方正ないい人や、一見ワルに見えても心根は心優しい正義の人、なんていうこの手の映画にありがちな人はいません。品行不方正で一見ワルで性根もワルです。こうした人物設定を茶化しきった演出も見られます。
例えば、祖父が孫に言葉を残すシーンでは、ちゃんとそれらしいアップになり、ちょっとウエットな泣かせるBGMに乗って「いい話」を伝えるような演出でもって、でも「何言うとんねん」という非道徳的なことを伝えたりします。
似たシーンが「気狂いピエロの決闘」で父が残す言葉のところにありました。こういう捻くれ具合の気持ちよさったらありませんぜ。アレックス・デ・ラ・イグレシアを支持する大きな理由の一つです。
非道徳的でブラックな味わいは、他にも例えば娼婦と少年のベッドシーンなどでもたっぷり堪能できます。クライマックスの人対人の関わりにも現れていますし、細かなシーンの節々で堪能できます。
そして、ただ単に非道徳でブラックなだけでなく、やっぱりそこには人間の面白さとか個性とか味わいがビシビシ出ていまして、脚本の勝利でありますし、役者さん全員が好きになります。
にわかアレックス・デ・ラ・イグレシア追っかけとして集中してみてるので、同じ役者さんが出てくる度にはしゃいでしまったりするのはしかたありません。
そしてまた乱痴気騒ぎの喧噪ってのが溜まらない魅力であります。喧噪や狂騒といったシーンを含む映画は大好物です。
とか何とかいいながら、若い頃の筒井さん風ドタバタの果てに、祖父の傷つく哀愁漂うエピソードなどを変に交えながら、わりとあっけに取られるエンディングを迎えて、見ているこちらは「おいこらクリントさん、男気を見せて出演してやれよ」と、無関係な大物に向かって架空のツッコミをつい行ったりして大満足で見終わります。果たしてクリント・イーストウッドさんに出演依頼をしたのかどうか、そこんところが気になります(するわけないするわけない)
小ネタのような物語の運びやデテールですが、じつはアレックス・デ・ラ・イグレシア監督の並々ならぬ深い考察も見ることができます。裏読み深読みというやつですね。いろいろあります。そしてそれを嫌味なく忍ばせます。そういうのも含めて、センスのよさは隅々まで感じることができます。「わかってらっしゃる」感はずば抜けています。面倒ですので具体的には書きませんけど、まあなんせいい映画です。
この映画についてはあまりぐだぐだ言うことはありません。哀愁とブラック、捻くれと喧噪の物語、面白さは天井一つ突き抜けます。たっぷり堪能できて大満足。
特に若い娼婦かわいいすね。あのひとだれ。いやそれはいいとして、何もかもが素晴らしい出来映えにて絶賛べた褒め中。
http://www.youtube.com/watch?v=MQXs0NiBLtM
↑トレイラー
↑いつものようにカッコいいオープニング
ところで、この寂れた映画村のお話を見て、翌日さっそく出かけました。どこへって、京都の東映太秦映画村ですがな。私、京都に住んでいますが生まれて初めて映画村に行きました。
前日にこの映画を見ているものだから感慨ひとしお。でもテキサス・ハリウッド村と違って、休日ということもありお客さんがいっぱいいました。
忍者もいました。
※ 娼婦役はヨイマ・バルデスという女優さんでした。
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