たしか予告編を見たんですよ。ものすごくふざけた予告編で、雪山のリフトが止まって身動きできないという設定を面白おかしく紹介したギャグ系の作りでした。そのノリに乗せられ「お」と注目したのは確かです。ですから予告編の効果は絶大であったと思います。ずっと覚えてましたからね。
雪山でリフトが止まるというそれだけのお話で一本の映画を作ったということ自体は面白いのですが、ただそれだけでしょ、という舐めた気持ちも起きています。ギャグで処理するとか、ハチャメチャにするとか、そういう映画だろうなと思って、尺も短いだろうし、スカッとさわやかに見てみようと思って時間の隙間に観ました。
ところがどっこい。この映画、ギャグやハチャメチャとはほど遠い、至って真面目なスリラーでした。本気恐怖の作品です。
以前、海に取り残される「オープン・ウォーター」という本気恐怖の映画を観ましたが、あれに似たタイプでした。「オープン・ウォーター」を観たときは、朝まで飲んで二日酔いどころかまだ酒が全身に残っている状態で劇場に臨んだものだから、実際以上に海の揺れが体に堪えて恐怖3倍船酔い5倍という超お得な楽しみ方ができたのですがそれは置いといて。
雪山の恐怖と言えば「処刑山」なんてのがありますが、あれとは何一つ共通点はありません。あれはあれでメチャおもろいですが。
冬の寒い日に観るのにぴったりな、凍えるような極寒シチュエーションスリラー、クローズド間際のリフトに乗り込んでそれが途中で止まり、置いてけぼりを食らう学生3人のお話です。
スキー場はこのあと一週間オープンしないという状況で、都会のエレベーターが止まるのとはわけが違います。サメがウヨウヨいる海に放り出されてしまう絶望感に比べて「何とかなるんじゃないの?」っていう日常と地続きなかすかな希望もあったりして、なかなか絶妙な設定ではないでしょうか。
で、90分間ドキドキしっぱなしでした。きっちり恐ろしいです。つまり面白かったのです。よくできていました。見終わったときはどっと疲れてはぁはぁぜぃぜぃ、その後は映画部で褒めちぎり大会となり、平日というのに夜中まで騒いで、おかげで翌日は寝過ごして大変なソリッドシチュエーションとなりましたがそれは置いといて。
「フローズン」は止まったリフトに取り残された3人という単一設定スリラーですので、ディテールををどうするのかが問われます。ギャグやハチャメチャで行くのも一つの手です。超絶スプラッタで行くのも一つの手です。意外な展開を用意するのも手ですね。真面目にやるなら、3人の移ろいでいく感情や恐怖心が主軸になります。この映画はそれを選びました。
この手の映画ですから物足りないと思う人や貶す人もいるでしょう。したり顔の「ツッコミどころ満載」野郎や「ぼくが考えた正しいフローズンはこうあるべき」の「べき君」たちも沸いてくるかもしれません。正しく素直な「こわかった〜(-_-;)」ちゃんもいるでしょう。私は「ボクはここが面白かった」君です。どうぞよろしく。
ストーリーのメインは3人の会話と助かるための挑戦になります。重要なのはもちろん登場人物たちです。
一般に「馬鹿な若者たちが」と紹介されがちな若者ホラーの登場人物設定です。キャンプ場やパーティで殺人鬼に襲われる若者たちの多くが「馬鹿な若者たち」で、これが見事に馬鹿すぎて「はよ死ねボケ」と客に思わせるような、中身スカスカの人物像ペラペラの、まさに殺されるためだけに配置される安直な登場人物です。そんなの見ててもちっとも面白くありません。私が気に入るタイプのホラーなりスリラーなりの登場人物は必ずここに一工夫があったり人物が個性的で設定がしっかりしていたりします。
ギャグに逃げない真面目タイプの映画なら尚更ここが重要になります。登場人物に感情移入させるのは必須項目です。単なる「馬鹿な若者」であってはいけないのです。「フローズン」はまずここにちゃんと魅力があります。
ジョン・アーヴィングは作中でコツを語らせました(「ドア・イン・ザ・フロア」)「いいか。ディテールが大事だ」そうです。ディティールが大事です。息子が事故で死んだときの描写において、履いていたシューズのブランド名を一言添えるだけで息子の人物像や状況が浮かび上がったりするのです。もちろんブランド名だけが大事なのではなく、そのブランドを選ぶ彼の好みや、どんな風に日常を過ごしていたのかなど、詳細なドラマがきっちり作られていることが前提となります。ブランド名の記述ひとつで、そういう事柄を読者に想像させることができるし、逆に読者に想像させることができるディテールの選び方というのがこれまた重要ってことです。こういうのが、虚構の人物に感情移入させるための基本技術となります。おっと事故で死んだ息子の話は置いといて。
「フローズン」の登場人物は男二人女ひとりです。男二人は幼なじみの親友、女は片方の男の彼女です。この三人の設定とドラマがほんとにきっちり作られています。最初から最後まで、破綻なく彼らの関係性が維持され続けています。どちらかというとソリッド・シチュエーションや恐怖演出のほうに幾らか破綻があったりするほどですが人物設定は破綻がありません。
「ディテールが大事だ」の格言通り、例えばインベーダーゲームのキャラクターをあしらったマフラーやボード一つとってもそうだし、付き合ってから1年そこそこっていうカップルの状態、幼い頃の思い出話、三人の付き合いの距離感、どれもちゃんとしています。短い会話の中で感情移入を起こさせるいい脚本だし、出演の三人の演技もとてもよいです。
そしてもうひとつ、彼らに設定された性格がけっこういいんです。これは単に好みの問題です。適度にオタクで適度に地味です。そして基本すごく優しく、馬鹿ではありません。映画の登場人物として非常に地味ですが、リアリティのあるいまどきの若者像です。このリアリティが、日常の延長にある事故の非日常性との相乗効果を引き起こします。
この映画に限らず、昨今のアメリカ映画には身の丈の地味な登場人物が出てくることが増えたように思います。最近、アメリカ映画を観てこれと同じ感想を持つことが何度もありました。
彼らの性格設定が好みのせいもあって「早よ死ねボケ」じゃなく、素直に「助かってくれ。がんばれ」なんて思ってしまうんですね。だから辛さも怖さも倍増して映画そのものも高評価、褒めちぎったりするわけです。
彼らの性格設定が好みではない人が観たら違う感覚になると思います。詳細な彼らのドラマはただの退屈な時間引き延ばしに見えるだろうし、残酷描写やストーリーの流れだけに注目して「もうちょっと何とかならんのかこの映画は」なんて負の感想を持つこともあり得るかもしれません。でもこの手の映画が好きな人は多かれ少なかれオタク的な人が多いので、大方登場人物は好感を持って受け入れられるんじゃないでしょうか。
といいますか、私がこの手の作品を好きなだけかもしれませんけど。
監督と脚本のアダム・グリーンはスラッシャー映画でデビューして本作は二作目だそうです。痛い描写の演出力はさすがという感じでした。でも「フローズン」で見せた地味系登場人物の上手な描き方にも才能を感じますので、そういった方面を伸ばした作品も今後期待したいところです。
これ、関西での公開は夏夏だったんですよね。
暑い日に汗だくだくで映画館に入り、流れる汗を拭いながら観ましたが、
気が付いたらゾクゾクしてました。うめき声上げてる人も何人か。
アメリカのローカルなスキー場っていう設定がキモだったと思います。
真夏にフローズン、いいですね。
劇場で観たんですか。さすがです。羨ましい。
これ、じっさい観るまではこれほど面白いとは思ってなかったのでとても好印象残しました。
スキーというかスノボとかやってられるんですよね。
リフトにはくれぐれもお気をつけを!