「人生、ここにあり!」ですか。また恥ずかしい邦題来ました。もう文句を言うのも疲れてきます。ちょっと昭和的な言葉で、それなりに味わいを感じる方もいるかと思いますが、後になって何がどの映画なのか思い出せないタイトルシリーズであります。
原題は「SI PUO FARE」で、えーと。なんですか?「やればできる」みたいな意味ですか。まあ「ここにあり!」とか、印象としては遠からずでしょうかね。「やればできるさ!」であってもあまり変わらないか。まあいいか。
イタリアでは1978年にバザリア法が制定されました。精神病院の新設、精神科病院への新規入院、1980年末以降の再入院を禁止する世界初の精神科病院廃絶法です。
治療は患者の自由意思の元で行われ、予防・医療・福祉は原則として地域の保健サービスが行うということにされました。
これはすごい法律ですね。日本ではこの当時まだ前時代的な差別的収容所が問題を起こしたりしていた頃です。
精神病の多くは社会が生み出す病であり監禁と薬漬けの治療が間違ってるということが明らかになってきているころです。
「人生、ここにあり!」はこの法律の施行に伴う取り組みを模索している中での実話に基づいた話だそうです。精神病患者たちの組合があって、そのリーダーが「自分たちで仕事をして社会参加しようじゃないか」と呼びかけ、みんなしてがんばる話です。
主人公は労働組合とか左翼活動でがんばってるおじさんです。ちょっとしたゴタゴタの末に、精神病患者の保健サービス機関に、組合リーダーとしてクビ同然で移動させられます。
前記法律のことを知らないと「はて?精神病入院患者の組合?患者の決定権が医者の指示より強い?どういうこと??」とハテナが浮かびまくりますが、バザリア法施行後の1983年、いろんな取り組みが行われていた頃が舞台とわかると合点できます。
退屈な切手貼りの仕事をしている精神科の患者たちを前に、やや駄目人間の組合リーダーは張り切っちゃいます。「みんな!もっとやりがいのある仕事をして、社会の経済活動に参入しようじゃないか!どうだ!」
最初、相手は薬漬けの精神科患者ですからやる気ありません。ですがこの手の物語としてのお約束通り、ひとりふたりと賛同者が増え、リーダーは信頼され、仕事を始め、上手くいったり時には失敗したりしながらやりがいと生きる力を得ていき、その姿に駄目人間組合リーダーの主人公もいろいろ学んでいく、と、そういう想像通りの展開になっていきます。
お約束の展開ですが、この手の人情コメディではそのほうが安心して楽しめたりしますので何でもかんでもお約束だからといって否定したりはいたしません。
笑いあり、涙あり、楽しいことや辛いことあり、いいじゃないですか。
キャラクターたちもある種の類型的造型から脱せず、愛嬌のある太っちょ、プライド高い女性、寡黙で一見怖いけど実はいいやつ、口はきけないが威厳のある顔つきしてるやつ(この人がほんとに面白いの)、すぐに落ち込んでしまう心優しい青年、飄々とした態度の味わい深いおじさん、そういった面々が活躍します。類型OK。人情ドラマの定番です。
さて、彼らが選んだ仕事は、内装工事の寄せ木貼りです。
パズルのような細かい作業、こういう病気の人たちに向いているんですよね。粘り強い作業や独創的な組み合わせを思いつくのが得意です。
仕事の内容が内装工事っていうところが気に入りました。職人仕事に価値を見いだすイタリアの店舗デザインは世界の憧れ、大層興味深いです。
はたらくおじさん映画としての工事シーンはやっぱり楽しいシーンになります。もっと仕事をしているシーンがたくさん見たかったりしましたが、まあしょうがない。
楽しそうに寄せ木貼りをする精神病患者たち。こうしたシーンを予告でちらっと見て「よし観た!」と思わずにはおれません。
公開が短いので観たい映画のほとんどを後になってDVD化してから観たりしますが、この作品もそうでした。公開が短いだけじゃなく、地方では公開時期も遅くなります。下手すりゃDVDが発売された後になってやっと地方公開の順番がまわってくるってことも珍しくありません。結果的に映画館へ足を運ぶことがどんどん減ったりします。嘆かわしいと残念に思いながらもどうしようもありません。
想田和弘監督の「精神」を観てもわかるとおり、精神病患者と言っても、特別な場合を除き普通の人とほとんど変わるところがありません。やや誇張された人間と感じる程度です。精神病は社会が作り出すもので、時代と社会によって決定づけられます。私は元々精神分析マニアの好色左翼の芸術家崩れの駄目人間ですから精神病と社会に関して言いたいことが山盛りあったりしますがここはぐっと堪えます。
この組合活動に燃える左翼思想の自由主義者の駄目人間の主人公(ひどい言い方やな)に、どういうわけか超別嬪さんの彼女がいて、この女性が成功している服飾のデザイナーの設定です。劇中、当時バブルだった日本への営業活動のシーンがあったりします。才能と美貌に恵まれた金持ちです。こういう素敵な女性が、左翼のハゲおやじとカップルです。これを見て嘘くさいと思うなかれ。実はこれこそリアリティある設定なのです。こういう女性が駄目男に惚れるのは古今東西よくあることです。
この彼女を演じるのはアニタ・カプリオーリという女優さんでございまして、ブロマイドはないかなと検索してみましたところ、IMDbには写真がなく、オフィシャルサイトを鑑賞したりするわけでございますが、このAnita Caprioliのオフィシャルサイトが、お洒落だけどよく分からないサイトでして、どうすりゃいいのか判りませんでした。そんなことどうでもいいんですが。