日本での不遇な配給に見舞われた残念というか可哀想なこの作品、タイトルの
「Hierro」は鉄です。これは母親の鉄の心を表しているのでしょうか。
突然フェリーで姿を消した我が子を必死で探す母親の物語です。
製作のアルバロ・アウグスティンは近年ヒットメーカーの大物で、ざっと見ると「パンズ・ラビリンス」から始まり「スパニッシュホラー・プロジェクト」「永遠のこどもたち」「チェ」「アレクサンドリア」「プリズン211」などを手がけています。
邦題「シャッターラビリンス」の「ラビリンス」は明らかに「パンズ・ラビリンス」を連想させようしています。実際にはラビリンス感などありません。主人公の心の迷宮と言えなくもないですが、イメージは随分異なります。
「シャッター」のほうはこれは「シャッターアイランド」から頂戴しているようです。母と子が旅行するはずだった島で母親が息子捜しを行う物語だからでしょう。もちろん島の名前が「シャッター」なわけでも何でもありませんで、かなり無理矢理です。
全員怪しい島民の中での主人公の孤独感、ミステリー的なストーリーや、さらに主人公の心理に踏み込むオチの予感を「シャッター」から想起します。これはある意味、悪意あるネタバレと言えます。
このタイトルのせいで、誰もが最初からうがった見方をするだろうし、オチだけを待つ心理状態に陥り、この作品の主軸である母親の不信感や孤独感を表現する本編部分を「無意味な退屈なシーン」と感じてしまうかもしれません。
ひどい邦題というのは、ただダサいだけではなく、作品イメージを間違った方向に固定してしまうという弊害があります。
というわけで「シャッターラビリンス」は悪い邦題のせいもあって「惜しい」という評価に繋がりかねない可哀想な作品ですが、かと言って邦題のせいだけでもなく、まあその、実際にちょっと惜しい作品とも言えなくもないです。でも基本的にはよく出来たいい映画の部類です。根はとてもいいんです。中途半端な物言いですいません。
旅の途中で消える我が子。探す母親の執念と孤独。閉鎖的な小さな島。怪しい島民。耽美的な映像美。狂気を含む心理描写。ホラー演出。サスペンスビックリ。ミステリー展開。関連する事件のクライム感。あれもこれも。あれもこれも。
そうです、スパニッシュスリラー名物、スリラーコンプレックス略してスリコン作品です。
いろんな要素を片っ端から詰め込んでノンジャンル感を強調するスパニッシュ・スリコン作品は、ほんのわずかな演出の違いで印象をがらりと変えます。バラバラな感じの不節操なイメージになったり名作になったりします。
「シャッターラビリンス」は決して外しているわけではありません。バラバラ感はありません。ただしちょっと幻想的なシーンの出しっぷりや、ミステリー展開部分に多少のいい加減さはあります。
細かく見ていると惜しいシーンの数々が思い起こされてしまいます。例えば冒頭の主人公たちと無関係なシーン、あれを冒頭に持ってきたおかげで開始直後話に全くのめり込めなかったり、こどもが生きていると確信する大事なシーンの描き方が幻っぽくて信憑性を感じられなかったりして、見ていると時々置いてけぼりを食らったような気になります。
まあそのような重箱の隅をつつくのは本意でないので褒める方向に向かいますが、全体的印象的にはいい映画と思います。ややアートよりの映像処理も若干くどいが渋くて綺麗だし、演出的な不手際や稚拙な部分は全然ありませんし、スリコン的シークエンスも作り手に感情移入して見ていると話の幅が広がります。
そしてなんと言っても主人公のがんばり母ちゃんがとてもいいんです。綺麗で素敵です。ほとんどこの方の一人舞台。おっぱい有り。すばらしいです。エレナ・アナヤはスペイン顔のたいそう魅力的な女優さんで1975年生まれ。
「機械じかけの小児病棟」のヘレン役の方ですって(憶えてない・・・)
「トーク・トゥ・ハー」に端役で出演もされています(憶えてない・・・)
「ヴァン・ヘルシング」で注目されたんですか?(見ていない・・・)
美女エレナ・アナヤの美しかったり狂気じみていたり汚れていたりアクションしたりするその姿を堪能するという鑑賞方法でもまったく問題ありません。いやむしろエレナ・アナヤのアイドル映画ではないのかとすら思えるその頑張り演技こそがこの映画の大きな見どころと言えるかもしれません。
私は個人的にスペイン映画をひいき目に見るので、この映画も全然嫌いじゃないしむしろ好きです。
ただしネタはいいのにちょっとだけ惜しい一品。エレナは最高だし脚本もいいけど監督もうちょっとだけがんばれ。もうちょっとがんばったらすんごい名作になったよ。
傑作・名作映画を期待すると惜しい、でも並み程度の何でもない映画と思って観たらすごく面白い微妙な立ち位置の「シャッター ラビリンス」でした。
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