あ、今「スリコンて何やねん」と怒りにも似た疑問をお持ちになったあなたにお答えします。スリコンとは、スリラー・コンプレックス、つまりスリラー的なるもののいろんな要素がてんこ盛りの複合的作品のことです。あまり知らないくせに無責任に勝手に申しますれば、それはスペインのホラー映画に多い多ジャンルあるいは雑ジャンルまたあるいはジャンルの垣根を越えた複合的な作品群を指します。指します、とか言ってすいません。今勝手に作った言葉です。
というわけで我らがギレルモ・デル・トロ師匠がプロデュース、「永遠のこどもたち」のキャストやスタッフが再結集した本作「ロスト・アイズ」に期待が膨らみます。
「永遠のこどもたち」も典型的なスリコン。ホラーでありノスタルジーでありサイコありミステリーあり虐めあり母の愛ありスリラーありのまああれもこれもとつぎ込みまくって最後はじ〜んのスリコンの鏡のような作品でした。
「永遠のこどもたち」「海を飛ぶ夢」の素敵な素敵なベレン・ルエダが今回も主人公です。いいですね。
キャストやスタッフだけじゃありませんで、本作「ロスト・アイズ」はいろんな意味で「永遠のこどもたち」と似ています。ストーリーは似ていませんが、一本通してみたときのスリコン的(馬鹿な造語はもうやめましょう)てんこ盛り加減や物語の顛末や見終わった後味など何となく全体的に似ています。
だからこそ、心を鬼にして言っておきましょう。「永遠のこどもたち」と比較して、大変残念な仕上がりです。あちゃー。言っちゃった。
「ロスト・アイズ」がてんこ盛りであることは一見してすぐに判ります。視力を失う、双子の姉妹、謎の死、ミステリー、幽霊か事件なのか、夫婦の愛、ドラエモン石ころハット、おばさんと息子、変な脇役たち、まあこれでもかというほど詰め込みます。「永遠のこどもたち」も詰め込んでいましたがあちらは抜群のバランス感覚にて奇跡の名作となりました。「ロスト・アイズ」は、個々のテイストがいまいち説得力に欠けるように思えます。多分演出や編集があまり個性的でないせいかもしれません。はい次、はい次、はい次、みたいなちょっと投げやりな感じを受けます。
けして悪い作品じゃないのですけどね。惜しい一品かもしれません。
と、見終わって映画部で飲みながらうだうだ話していて途中で別の見方を発見しました。酔っ払っているのでその見方を発表したとたん映画部は大盛り上がり。「その視点で正解や」と映画部妻にもお墨付きをいただきました。
では発表します。
ロスト・アイズの若干残念な仕上がりは、意外なある大映画監督を彷彿とさせるのです。それはダリオ・アルジェントです。
ダリオ・アルジェントはご存じの通り超名作「サスペリア2」から超駄作「デス・サイト」まで、それはそれは幅のある作品をお作りなる天才です。
「ロスト・アイズ」の残念感は、ダリオ・アルジェントの「デス・サイト」や「ジャーロ」にとてもよく似た残念感です。詰め込む内容とその繋がり方に無理があったり、個別の説得力に欠けすぎて「はぁ?」ってなるあの感じです。
繋がりに無理があろうと個々の説得力がなかろうと、ときにはそれが芸術作品のように調和して「サスペリア2」みたいな奇跡を起こしたりします。この当たり方・外れ方は人智を越えた何ものかが介入しているとしか思えないです。ま、それはともかく。
「ロスト・アイズ」の不調和感はまさにダリオの失敗作と酷似。そういえば、意味のない奇妙な脇役(盲人があれ見たら怒るでー。見れないだろうけど)や過保護の母親、登場人物全員を意味なく怪しく思わそうとする演出、だらだらした動き、その他いろんな部分がダリオ・アルジェント的なる要素を思い出させます。
脚本・監督のギリェム・モラレスはきっと「サスペリア2」みたいな奇妙で独特な世界をこの映画で作り出したかったに違いありません(決めつけ)
・・・・大発見だと思ったけどやっぱりそれは酔っていたからだけのようです。書いてみたら意外とつまんない。
というわけで、映画マニアの似非評論家みたいな馬鹿な視点から離れて純粋に映画を楽しむ観客になってみますと、見ている間は面白いです。映像的にもハッとする良いシーンあり、不安感あり愛あり哀れありじ〜んありで、よく考えればそれでOKではなかろうかと思えてもきます。スペインでは結構ヒットしたのだとか。
個人的にはちょっと久しぶりにスペイン語の響きを堪能できてそれだけでも結構満足していたりします。「グラシアス」とか「オラ」とか「シーシーシーシー」とか。
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